第18話 私の終わり セスカ視点

 妹達と分かれて、洞窟へと戻り住みやすい環境にしようとした時だった。

いきなり頭部に衝撃が走ると共に、自分の体がまるで意思を無くしたかのように、硬い地面の上に横たわる。

突然の事に理解が追い付かない、ここには私達しかいない筈なのにいったい誰がこのような事をしたのか。

頭を回して考えてみるけれど答えは出て来ない、いや本当は分かっているけど信じたくないだけだ。


「ふふ、ははは、セスカ貴様……蘇ったからとはいえ油断し過ぎではないか?」

「……笑っちゃ悪いよシュラ」


 後ろから面白そうに笑う弟達の声が聞こえる。

そうではないと信じたかったけど無理だった、動かない身体で唯一動かす事が出来る眼に映る地面の影には隠した筈の翼が見えていた。


「……あなた達、何を考えているの?」

「何を考えているだと?そんなの決まっている、セスカ……貴様は邪魔だ」

「シュラあなた……本当に何を?」


 邪魔だという理由で、この愚かな弟は姉を殺すというのだろうか。

けれど天族は死んでも体の一部があればそこから肉体が再生し、時間が掛かるが再び蘇る事が出来る。

それが分かっているのにどうしてそんな無駄な事をしてしまうのだろう。


「俺は考えたんだ、この世界を見ろ……何処をどう見ても平和そのものじゃないか!

なのにどうして俺がこの世界の人間の為に働いて生活をしなければならない?レイスも同じ考えだろう?」

「僕はただ、以前の人生と違って……現代では自分の意思や考えで動いても大丈夫そうだと思ったから、面白いそうな方を選んだだけだよ」

「それを同じ考えだというんだ、と言う訳で俺達は好きなようにやらせてもらう事にした」


 信じられない、そんな自分勝手な考えで私の事を襲ったのか。

折角蘇る事が出来たのだから、この世界の事を良く知って平和に生きるべきだ。

あの大戦の頃のように破壊を繰り返す時代ではなく、今は人が人らしく生きているし、魔族と天族もこの世界の人達と共存出来ている。

これは間違いなく私達を含めた過去の人間が、あの時代を生きて勝ち取った権利だ……だから幸せに生きていつ来るか分からない寿命を迎え、蘇る事無く眠りにつくべきなのに何故?


「レイス……あなた、本当にそれでいいの?」

「うん、僕はこれでいいよ……、もう創造してくれた神の為に尽くすのも、誰かを守るのもうんざりだ」

「だろう?俺は、態々弱い奴等を助けるくらいなら、奪って満たした方がいい……どうせ生きる価値のない弱者だ、俺様の為に生きて死ぬ事が出来るなら本望だろう」


 ……まるで自分がこの世界の王とでも言いたげな発言に思考が止まる。

確かにシュラは自分以外の存在を無意識に見下す癖があったけれど、ここまで酷くなかった筈。

でも……もしかしたらそれは、当時は自分よりも優れた相手がいたから鳴りを潜めていただけで、実はこれが弟の本当の姿なのかもしれない。


「……今まで私を騙していたの?」

「騙していた?何の話だ?」

「シュラ……私の知ってるあなたは、人を見下す悪癖があっても職務には忠実で部下には慕われていたわ」

「……あの時は、創造してくれた天神や俺達よりも強い娘様達がいただろ?俺が好き勝手に暴れたら滅ぼされちまうだろうが、だが今この時代には俺を止める奴はいない!三英雄の娘様とあの魔族の優男は生きてるらしいが、もう老いて全盛期の力を出せはしないだろ!つまりここは俺の時代であり、世界は俺の為にあり、俺がこの世界を手に入れて独占する権利があるんだよ!」


 シュラの声に躊躇いや迷いはない。

この身体が動くのなら今すぐにでも起き上がって、弟が二度と蘇る蘇る事が出来ないように完全に滅ぼしてしまうべきだ。

でも、それが出来ない今……少しでも二人から情報を聞き出してセツナ達が戻って来た時に現状を説明した方がいい。


「レイス、本当にあなたはそれでいいの?」

「うん、聞いていて凄い楽しそうだなって思ったからシュラと共に行くよ……、僕がいればこの世界の人間達の意思を好きに操る事が出来る、だから兄がこの世界を支配する事くらい簡単に出来るんだよ、僕はね……その裏で楽が出来てゆっくりと眠る事が出来るならそれでいいんだ、僕が何もしなくてもご飯を出してくれて、全ての面倒を見てくれる人達がいる、面白いし幸せだよね」

「……レイス、話しはこれくらいにして、そろそろ準備を始めるぞ」

「うん、けど痛くしないでね?」

「無理を……言うな!」


 何かが砕けるような音と共に、私の目の前に石で出来た翼が落ちて来る。

そして……今度は生々しい嫌な音がしたかと思うと、血まみれ翼が私の顔を汚しながら落ちた。


「……っ!?」

「……こうする事で、あいつが帰って来た時に何かがあったと思うだろ」

「痛いんだけど?」

「暫くしたら生え変わるから我慢しろ……後は、貴様の番だ俺の能力で痛みを感じる事無く終わらせてやる」


……その言葉の後目の前に背中を流れる血液で赤く染めたシュラが近づいてくると、そっと撫でるように私の頭に触れた。

すると……耐えがたい眠気に誘われて、身体から体温が失われ全身が凍えるように寒くなって行く。

あぁ……折角この世界に再び蘇る事が出来たのに、私はここで何時再生が終わり、目を覚ますか分からない長い眠りに落ちてしまうのだろうか、そんな事を思うと同時に視界と意識が黒く染まり消えて行った。

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