羽球プライドッ!! 〜トゲだらけの思春期ガールは《ダブルス》が出来ない〜

星名 泉花

第1話「ソップーと思っていたらストップだったらしい」

『バドミントン』


それはシングルスとダブルスで生き残り方が異なるスポーツ。


「お前、もう少し協調性を持てないのか?」


「私はシングルスです。一人で十分強いです」


2019年 春。


体育館に乾いた弾ける音が響き渡る。


バドミントンの球、シャトルを打つ音だ。


木目を擦るキュッとした足音と混じり、その忙しなく続く激しい動きは鷹のように鋭い。


中学二年生の高崎 柚希は幼い頃よりバドミントンをプレイしてきた実力者である。


はじめてパァンと弾ける音を出してシャトルを飛ばすことが出来たとき、柚希はその快感にのまれた。


それから努力を続けてきたわけだが、柚希には一つ、大きな欠点があった。



「事実、私は部活内で強い。先輩ももうすぐ引退。つまり……私は最強」


「ボケてもツッコミ役不在」


ニヤリと口角を不気味にあげながら『最強』を名乗る柚希。


顧問の橋場は深くため息をつき、頭を抱えた。


柚希は勝気な性格をしており、我が強い。


バドミントンには一対一で戦うシングルスと、二対二で戦うダブルスがある。


しかし柚希は強すぎる我の強さにより、ダブルスが出来なかった。


誰と組もうと衝突がおこり、破綻する。


シングルスでは絶対的な強さを誇るが、ダブルスになると途端に悲惨な戦い方をするのであった。



「先生はこの先の高崎が心配だよ」


「心配不要ですちゃんと結果を出します。必ず全国大会に行きますから」


「オレは心配だ。心配すぎて頭がおかしくなった」


一体コイツは何を心配しているのだろうと、柚希は首を傾げる。



「そこでオレは荒療治をすることにした。お前、今日からダブルスへ転向!!」


「……は?」


「というわけでお前のペアを紹介する! お前と苦楽を共にする相棒の野中だ!!」


「よろしくね、柚希ちゃん」


「いやいやいやいや、意味わからんわ!」


橋場の強行突破な姿勢が理解できず、困惑する。


そして橋場に手招きをされ、のんきに歩いてきた“相棒”の野中も意味不明である。


野中 真綾、同学年でバドミントン歴は長い。


ボブ頭のくせ毛なほわほわした見た目の女の子だ。


先輩や同学年とも関係良好で、それでいてそれなりに実力もある。


気の強い柚希とは真逆のおっとり系だった。



「この子、シングルスで十分強いじゃん! ……私には劣るけど」


「その見下したとこだぞぉ」


顎に手をあて、頷きだす橋場。



「柚希と真綾。うん、よく似ている。ダブルスにはバッチリだな」


「一つも似てないわ。……最悪な雑さ」



橋場の対応に反吐が出る思いだった。



「……どうせ先輩の優遇でしょ」


「柚希ちゃん……」


心配そうにこちらに手を伸ばしてくる真綾の手を振り払う。


鋭く尖った目つきで橋場を睨みつけた。



「シングルスだと枠がないから出してもらえない」


実力が上でも先輩が優先される環境で、なかなかトップチームに入ることが出来なかった。


一年生だからと選抜チームに選ばれない。


シングルスで先輩に勝っても、総合的判断として除外。


ダブルスが組めない致命傷があるからだ。


中学バドミントンの団体戦はダブルス2組、シングルス1名の計5名で行われる。


つまりシングルスでの選抜枠は1つしかない。


団体戦の枠は固定ではなく、試合によってシングルスとダブルスの入れ替えも可能だ。


どれだけシングルスで強くても、ダブルスが出来ない柚希は選ばれなかった。


強さを誇る柚希からすると、それはプライドをズタズタにされるようなものだった。



「ダブルスという立ち位置と、最後の大会と建前振りかざして私を排除しようとする。私より弱いのにダブルスで枠をとる」


「高崎っ!!」


「ダブルスなんてやるもんか! 私は一人でも強いですから! 先輩たちがシングルスの道を邪魔するなら実力で倒しますんで!!」



悔しさに吠え、柚希は背を向け走り出していた。



***



毎日走って筋トレして素振りをする。


縄跳びを何技も繰り返して、また走る。


壁に向かってひたすら打ち続け、落とさないように足腰を鍛えていく……そんな毎日。


中学という場所は先輩後輩に厳しい。


特にこの学校のバドミントン部はそれが顕著なようだ。


先輩がいる限り、ほとんどコートに立たせてもらえない。


それでも柚希は勝利した。


先輩たちが引退すれば怖いものなんてない。



(コートに立ちたい)



シングルスの試合は純粋だ。


そして団体戦は出してもらえなくても、個人戦は完全実力だ。


一年生の時に参加した新人大会では全国大会出場までの結果は出せた。


シングルスとしての実力はうなぎ登りであり、次は全国大会上位で戦っていけるだろう。


だが柚希は中学バドミントンという場に立つ以上、団体戦で勝利してみたいという捨てられない夢があった。


団体戦ならばシングルスの柚希でもみんなと同じ喜びを味わえるのではないか。


……そんな“柚希らしくもない夢”を抱いていた。



「柚希ちゃん。最初の基礎打ち、一緒にやろうよ」


橋場に何か言われたのだろう、真綾が声をかけてくる。



「うん」


だが柚希にとってそんな理由はどうでもよかった。


コートに立つ時間が多ければ多いほど、柚希はワクワクした。


思いきり身体を動かし、シャトルをラケットで打てる瞬間が最高に気持ちよかった。



「真綾、一緒にやろー」


「ごめん、柚希ちゃんとやるから後でね」


それでも真綾が周りから声をかけられるのを見ると、スンッと気持ちが冷めていく。



「あんた、私に声かけなくても相手いるじゃん」


「あたし、柚希ちゃんの相棒だもん。早く柚希ちゃんのクセになれたいからね。それに基礎打ちはみんなで回してやるでしょ?」


「……義務感かよ」


何故、こうもイライラするのか。


誰かが一緒と思うだけで途端に足取りがわからなくなる。



(なんて窮屈……)


思いきりシャトルを打ち飛ばせばどこまでも飛べる。


足かせはいらない。



「ま、待ってよー」


一人、コートの中へ歩いていく柚希の背に手をのばし、真綾は追いかけていった。



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