元勇者が教える魔王の倒し方〜500年前の元勇者、新たな魔王が現れたので仕方なく勇者学園の教師となる〜

あおぞら@書籍9月3日発売

第1話 魔王を倒した元勇者

「…………はぁ? 俺に教師をやれだと?」


 俺———レオンは、突然やって来た『勇者学園』なる機関からの使者の言葉に思わず眉を顰める。

 使者と名乗る青髪の女は、身長170そこそこの俺より少し低いくらいで身体の線は細い。

 見た感じ20代前半の若そうな女性である。

 

「お前……そもそも本当にその学園の教師なのか? 何か身分を証明できるものは?」


 突然の来訪に訝しむ俺に、使者は一瞬面食らった様に瞬きを繰り返した。


「も、申し訳ございませんっ! 私はユミルと申します。魔塔の2級魔導師で、勇者学園の助教をしています。この度は学園長と塔主様からの命を受けてやってきました!」


 『魔塔』とは。

 そして2級魔導師とか助教とは何ぞや?


  恐らく魔法関連なのだろうが……500年前には魔塔とか言うモノはなかったし、何級とかも存在しなかった。

 助教はそもそも見当もつかない。


 よく分からない単語の羅列に、頭にハテナが浮かぶ俺へと、ユミルは何やら名刺を渡して来る。

 その名刺には、強力な偽造防止の魔法が掛かっており、ユミルの名前やら顔やらが書いてあった。


 ふむ……これは流石に偽物じゃないか。

 こんな高度な魔法を使える奴なんて限られてるだろうし。


「意味分からん言葉があるのは取り敢えず置いといて……何で俺が教師にならないといけねぇんだ? しかも500年も経って今更」

「そう思われるのも無理はないでしょう。私達も人の世を離れた貴方様に頼むのがおかしいことだとは重々承知しております。しかし、500を倒すには前代の魔王を倒した勇者様———つまり貴方様の力が必要なのです!」


 身振り手振りで力説するユミル。

 そんな彼女の姿を見ながら内心鼻で笑う。


 はっ、何を言い出すかと思えば———。


「勘違いして貰っちゃ困るが……俺はもう勇者じゃない。俺の役目はとっくの昔に終わってんだよ」


 そう、俺の役目は500年前に終わっている。

 

 ———魔王を倒すと言う役目は。


 俺はこれ以上くだらない話を聞く必要はないと思い、ユミルを無視して、今日の昼飯となるモンスターを狩りに行くべく安物の剣を手に取る。

 全く相手にしない俺を見て、ユミルが慌てた様子で玄関を陣取った。


「ま、待って下さいっ! 我が学園の卒業生が魔王軍に挑んだのですが……返り討ちにされたのですっ!!」

「そんなこと知るかよ。帰ってくれ、もう俺は働かん。教師にしろ何にしろ、誰があんな慈善活動なんてやるか」

「ですが、貴方様の力が必要なのです! お願い致します———勇者レオン様!!」


 勇者レオン・ブレイブ・ソードレイ。

 つまりは俺のことだ。


 最大最凶の敵———魔王を倒した人間。

 莫大な富と名誉を手にした英雄。

 人類最強と名高い武人であり魔法使い。

 圧倒的カリスマで人類を救った救世主。


 ———何て大層持ち上げられて呼ばれてはいるものの……実際は戦いに疲れた前時代の死に損ないに過ぎない。


 現在は逃げる様に戦いから離れ、人の世から遠く離れたこの深い森の一角で隠居生活を送っている。

 勇者という人類最高峰の生命力保持者であるが故に、普通の人間の様に死ねない地獄を500年もずっと。


 それはもう……地獄としか言いようがなかった。

 

 目標だった魔王討伐を終えると、まるで人生の意義を感じなくなった。

 それだけでなく、何しても長続きせず、昔に比べて大分怠惰になっている。


 まぁ怠惰なのは元からなのだが。

 よく聖女とか魔導師のおっさんに文句言われてたっけな。

 2人共死んじまったけど。


 一緒に旅した他の仲間も、残念ながら既に皆他界している。

 残ったのは俺だけだ。


 昔の仲間のことを思い出していると……最後に聖女が言っていた事をふと思い出した。


『……最後に俺に何して欲しい?』

『そうですね……誰かに頼られたなら、助けてあげて欲しいですね』


 そう言って今でも忘れられぬ皺だらけとなった顔で微笑む聖女。

 それが、最後の最後まで他人のために生きたあの大馬鹿聖女の願い。


 ……あぁ、くそッ……しゃあねぇな。


「はぁ…………分かった、受けてやるよ」

「ほ、本当ですか!? あ、ありがとうございま———」

「———ただし」


 俺は、喜びで舞い上がるユミルに釘を刺す。


「俺はもう勇者じゃない。俺が前線に立って戦うことはないからな。誰かに指図されてもやらん」

「勿論です!」


 教師以外のことは全てやらないと言っているのだが……即答して顔を綻ばせるユミル。

 こんな奴を使者にして大丈夫なのかと思わないこともないが……まあ俺には関係ないか、と気にしないことにする。



「それと———俺は結構不真面目だから、覚悟しとけよ」

「はい……?」



 困惑の表情を浮かべるユミルを見て、俺はしてやったりと笑みを浮かべながら準備に移った。


————————————————————————

 少し変わった学園モノ。

 元勇者の教師と勇者候補生達のお話です。


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