第22話 クオン、わけもわからないまま義兄弟の契りを結ぶ。

 そんな突拍子もない提案に、俺達は思わず目を見合わせた。


「いったいこいつは何を言い出すんだよ……。」俺達4人はそれを言葉にはしなかったけど、毒姫を見つめる表情がその言葉を十分に語っていたに違いない。


「な、何よ?みんなその表情は。」


 そう言って毒姫は、いかにも不服そうな視線を俺達に向けた。


 いや、そりゃあそんな顔するだろ。俺達を殺そうとした悪党を家来にしろだなんて……。あまりにも発想が異次元すぎる。


「だって、こいつら殺し屋だぜ?いくら騎士団を離れる決心がついたからって、俺はこれからこの南方の地で身を隠しながら生きていかなきゃならんのだぞ。敵を仲間に出来るわけがない。」


「だからこそ三人を家来にするのが一番いいのよ。貴方が邪教の仲間になっちゃえば取り敢えず一つの問題は解決するわ。それにリョウマはこれからの行先に心当たりはあるの?」


「それはそうだけど……。」


 それを言われてしまうと二の句の継げない情けない俺。今回の家来の話も、少女がそんな俺の境遇を考えてくれてのことらしいのだ……。


「まぁ、当然無いわよね。だからね、この3人にあんたの面倒見てもらおうってわけよ。彼らならこの地方でも顔が広そうだし。」


「そりゃあ、いい案かも知れないけど。こいつ等昨日まで俺達の命を狙って来たんだぜ。」


 結局、気になるのはそこなんだ。昨日の敵は今日の友なんてそう簡単に行くかい?俺としては正直なところそう簡単に割り切れないのだ。


「でも今は縛られたままで、私達の意のままよ。それにこいつ等は利害関係で私達を狙って来たわけだから、今は誰に従ったら良いか良く知ってるはず。そうよね。」


「私達は構いませんぜ。あんたの家来ならもう姫に線虫丹を飲まされることもなさそうですし。」


 話を振られたやさ男は特に抵抗も無くそう言ってのけた。尋問の時はあんなに根性見せたくせに「こんな若造の手下になるのは嫌だ〜」なんて言わないのかね……。


「ほら、こいつらもこう言ってるじゃないの。」


 やさ男のそんな言葉に、あとは貴方の返事しだいよ的な毒姫の表情がなんとも鬱陶しい。


 それに……。俺はつくづく思い知らされた。やっぱり俺は、人の上に立つなんて柄じゃないんだ。今回のことで俺は心の底から自分の甘ったれた性格に気が付かされた。


 だからこそ俺は断るべきなのだ。


「駄目だよ。俺みたいな男の家来じゃ、返って彼らに悪い……。」


「結構あなたってめんどくさいのよねぇ。」


 まぁ、彼女にしてみりゃせっかくのナイスアイデアを断られたんだから、面白くない。そこから俺達の間に無言の時間が流れた。

 時間にしてみりゃ、それほど経っていなかったのかも知れないが、少しの間があった後、今度は彼女の代わりにやさ男が俺にこう言ってきた。


「兄さん。じゃぁこう言うのはどうです?俺達三人と兄弟になるってのは?」


 えぇ?義兄弟ってそれじゃまるで三国志じゃん……なんて俺が戸惑っていると、彼女まで「それいいじゃない。」と義兄弟を俺に勧める。おまけに残りの二人までが口々に義兄弟がさぞ妙案のように言ってきた。


「そりゃあいいや。聖騎士様と邪教派が義兄弟なんてよ洒落てるぜ。」


「それとも兄さん。俺達邪教なんかと義兄弟になるのは嫌かい?」


 家来が駄目で義兄弟が良くて……。結局こうなってくると俺はもう、何がなんだか分からなくなってきた。


 そして挙げ句に……。


「い、いや。それなら別に構わないんだが、ちょっと話が急すぎて。」


 なんて、ぼんやりとした返事をしてしまった。


 そしたら話はトントン拍子で進んでいく。


「なら決まりだな。この場合、年齢に関係なく当然リョウマの兄さんが一番の兄だなぁ。なぁいいだろ。」


「あぁ。当然だ。」


 一番年下の俺が兄貴分なんて、俺は結構がんばって断ったんだが結局あれよあれよと言う間に義兄弟の契をこの3人組と結ばされてしまった俺……。全く任侠映画かよ、とも思うがこの南方の地はそう言うところらしい。

 全くの急展開で、俺に変な弟が一気に三人もできてしまって……嬉しいんだか悲しいんだか……困ったものである。



 まぁ、こんな感じで、ここに奇妙な5人組が誕生した訳だ。


 まだまだ頼りない俺と、その見た目に反して邪教派に恐れられる少女(毒姫)。そして俺達を殺そうとしていた異教徒三人組。

 ここで、邪教から異教徒に言い換えたのは、やっぱり彼らが俺の兄弟だから。そして邪教と言う呼び名が、俺が足を洗った聖騎士団が異教徒を侮辱するためのよび方だったからだ。


 晴れて、その縄を解かれた男達。彼らの事をここで紹介しておく。

 彼らはもともと孤児であったが、同じ武術の師匠の元で修行をした兄弟弟子だ。


 まず頭の切れるやさ男。彼の名前はリュウダイ。三人とも武器は曲刀を使うが、彼はどちらかと言えば頭を使って勝つタイプ。さほど鋭くもない刀裁きだが、彼と戦えば、いつのまにか不利な体勢に持ち込まれるらしい。それと何やら奥の手も持っているらしいが今はまだ分からない。


 次に、自ら毒入りの酒を見つけた身の丈2メートルの大男。だからと言って彼が間抜けと言うわけではない。たまたま相手が悪かったのだ。彼の名前はリュウサン。体格を生かした力技で相手を圧倒する剣技の使い手。


 最後に、特に身体的特徴は無いものの、常に辺りに鋭い眼光を送っている男。とりあえず目つきが悪いが彼の目はちょっとした事も見逃さない。それが彼の特徴。彼はその身軽な身のこなしからして、どちらかと言うと間諜に向いているのかもしれない。武器も小型の曲刀の二刀流、その刀をナイフのように使って相手の懐に飛び込むスタイル。彼の名前はリュウショウと言う。


 この南の地には何故か漢字に似た表意文字が存在するが、彼らの名前を漢字で表すと、琉大、琉三、琉小となる。



 さて、5人組誕生と言っても、まだ彼ら3人が毒姫に信頼されている訳ではない。縄を解く時、彼らは少女から一粒の丹薬を飲まされた。


 もちろん線虫丹なんておぞましい薬ではない。しかし、男にとってこれもまた嫌な薬である。3人が飲まされた薬は、先日、例の若旦那が飲まされた薬(男の大事なものが使い物にならなくなる薬)と同じものであった。


「あの薬があんなに効くとは思わなかったから。」


 そう言って彼女は笑っていたが、そりゃあ男にとってその薬ほど屈辱的な薬もないだろう。本当に、気の毒としか言いようがない。


 しかたなく、俺は彼女に頼み込んで毒消しを三粒もらってやった。これも新しい兄弟の為である。しかし、やっぱり俺は彼らをまだ心から信頼出来てはいない。彼らはただ単に利害関係で毒姫の言う事を聞いているだけに過ぎないのだ。


 だからこそ、この毒消はまだ三人に与えるわけにはいかない。しばらく俺が預かっておくことにした。

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