第18話 懸賞金が出てるんだよ、金貨100枚の

「あなた方が追っていると言う、騎士団の青年について知っている事を全て教えてほしい。」


 俺は、ただそのまま知りたいことを男達に尋ねた。姫みたいに脅したりスカしたりは柄じゃない。それに俺にはあんな真似は到底無理なのだ。


「あぁ、そのことか……。懸賞金が出てるんだよ金貨100枚の。今年騎士団に入団したばっかりのイニアとか言う名前の小僧らしいが、お前さんは知らなかったのかい?だって騎士様なんだろ。」


 兄貴分のやさ男がそう答えた。


「俺に懸賞金?」


 俺は思わず自分の耳を疑った。


 なんせ、王都からこの南方の地に至るまで、俺は指名手配されるような悪事なんかこれっぽっちも働いた覚えはないのだ。あえて心当たりがあるとすればつい昨日の出来事ぐらいである。

 それなのに、なんで金貨100枚などと言う大金が俺にかけられているのだろうか。俺にとってはまったくもって寝耳に水の話だった。


 恐らく何かの間違いだ。しかし、いったいどう言った理由で俺に懸賞金がかけられているのだろう。それさえ分れば誤解も解けるはずである。


 俺は、もう一度やさ男にその理由を聞いた。


「良くはわからねぇが、何でも騎士団に古くから伝わる秘宝とやらを盗んで逃げたって話しらしいぜ。」


 俺は隊務で王都を出たはずなんだが、いつの間にこんな事になっていたのだろうか……。だいいち騎士団の秘宝とはいったいどの様な物であろうか。それすら俺には見当がつかなかった。


「騎士団の宝物だっていったいどんな。」


 俺は思わず問い返す。


 しかし、やさ男は知らぬ素振りで冷たく言い放った。


「さぁね。そんなことまで俺達にわかる訳ねぇだろ。騎士様に解らねえことが俺達にわかるかよ。」


 




「ねぇ。もしかしてあなた、なんか盗んだの?」


 隣で黙って話を聞いていた彼女が口を挟む。


「まさか……。騎士団の宝物なんて俺にもなんの事だかさっぱりわからないよ。俺はただ任務でこの南方の地に来ただで……確かに領主への贈答の品は持たされているけどさ。」


 確かに出発時に領主に献上する貴重な品は持たされていた。しかしその中身までは確認していない「もしかしてそれか?」咄嗟にそんな考えが浮かぶ。


 それは姫も同じだった。


「ちょっと、あなたその荷物の中身を確認してみたら?もしかして何か入っているかもよ。」


 彼女にそう言われて、俺は事態確認のために部屋の隅に置いていた自分の持ち物に手を伸ばした。しかし、その様子を見ていた眼の前の男が、俺の心を見透かしたように言う。


「なるほど。やっぱりあんたがその新米騎士様ってことかい。しかしなぁ……いちいち荷物なんて確認したって意味はないんじゃないか。」


「意味が無いとはどう言うことだよ?」


「まぁ、俺達にとっちゃお前さんが黒なのか白なのかなんて全く興味が無ぇ。どっちだろうとお前さんの首に懸賞金が掛けられているのは変わりねぇのさ。それに結局よ、こんな話が俺たち邪教派に回ってきた時点で、依頼主はお前の事を殺したがってるってこった。まぁ簡単に言えばお前さんは嵌められたってことなのよ。」


 男はそう言うと俺に向かって卑屈な笑みを見せる。


 結局、この男達も姫と同じことを言うのだ。「団長が俺を殺そうとしている」と……。騎士団が俺を殺そうとする……それは団長が俺を殺そうとしているのと同意なのだ。



 俺はちらりと少女に視線を移してみる。すると彼女は「ほらね」と言わんばかの顔で俺の事を見ている。


「あんたが騎士団でどんな立場にあったかは知らないがこんな事はよくある話さ。まぁ、騎士団のボンボンなら知らないのも仕方がねぇ話か。だがな覚えておくといい。王都の連中は普段は邪教派と敵対している様に見えるが、あいつらの汚い仕事は全て南の俺達に回ってくるって寸法なんだ。北の連中はいつも偉そうに聖だ邪だと言ってはいるがな……。」

 

 俺が何も知らないボンボンだと知ると、男の口はさらに良く回った。しかし、そんな姿が少女の琴線に触れたのだろう……彼女はいきなり男の脇腹を思いっきり蹴り上げた。


「ちょっと、調子に乗って喋りすぎよ。あんたは聞かれた事にだけ答えてればいいの。」


 男は、縛られた腕で脇腹を抱えることも出来ず呻きながら身体をよじらせる。


 確かに男は喋りすぎだった。しかしその言葉は俺が初めて聞く言葉である……。何よりこの場所で交わされた全ての会話は、やはり俺は姫の言う通り何も知らないお坊ちゃんだったという事実を……俺に嫌と言うほど突き付けた。


「いい話しが聞けたよ。これだけでも南に来たかいがあった。」


「おや?案外聞き分けがいいのね。あなたのお父さんがあなたを罠に嵌めようとしているのに?もっと取り乱すかと思ったわ。」


「いや俺も冷静な自分に驚いているよ……。」


 だって、この時の俺は、「団長が俺を殺そうとしている」なんて事実を、いつの間にか心の奥底で受け入れてしまっていたのだから。


「ふ〜ん。あなたって結構変わってるわね。ただのお坊ちゃんかと思ってたけど。」


「俺達親子にも色々あるんだよ。ほら、名前だってさ……。」


「そうね。イニアじゃなくてクオンだもんね。」


 そう。彼女の言う通り、騎士団を離れた今の俺は、イニアでは無く転生者クオンだった。だから義理の父親に命を狙われていたとしても、こうやって淡々としていられるのだろうか……。いや、さすがに命を命を狙われて平気でいるやつなどいない。


 だから……この時の俺は、騎士団長が俺に濡れ衣を着せて殺そうとしていると言う事実を……たぶん納得してしまっていたのだ。


次話


大太刀おおだちの怪人』

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