からあげの魔法

もちっぱち

ノンフィクション


「買い物してくるよ、何が食べたい?」


母は、

こたつで横になる

長女の瑞季に話しかける。


「えー、んじゃ、これ。」


パクパクとジェスチャーで答えた。

丸いものを表していた。


「なんだろう。

 おにぎり?」



「そう。」



「筋子?」



「違う。

 塩おにぎり。」



「コンビニの?」



「そう。

 それが食べたいの。」



「はいはい。

 わかりました。」



 母は、あえてのコンビニおにぎりを買う。

 瑞季の食べたいおにぎりを

 再現できないためだ。

 お米はたっぷりあって、

 炊飯器に炊き立てのご飯があってもだ。


 例え、母が塩おにぎりを

 作ったとしても

 これじゃないと否定される。


 手作りの焼きおにぎりを作っても

 冷凍食品の焼きおにぎりが美味しいと

 言われて残される。


 確かに味付けは濃いし、

 美味しい。


 でも、手作りのおにぎりだって

 美味しいのを平気で残す。


 ありがたさを感じないらしい。


 多少、お金はかかっても

 コンビニの海苔がついてない

 塩おにぎりを買うのだ。



***


 母は、1週間分の買い物を終えて

 帰ってきた。


「おにぎりだけじゃお腹いっぱいに

 ならないから、

 どんぶりとうどんだったら

 どっちがいい?」



「うどん!」



「最近、温かいうどんだったから、

 ざるうどんでもいいかな?」



「うん!

 それでもいいよ。」



 瑞季は、ニコニコと

 こたつに潜って

 父の隣で一緒に横になる。



「お父さんはなんでもいいでしょう。」



「うん。」



 父は、いつもなんでもいいと答える。 

 母からしたら、それは助かることだが、

 瑞季はいつも食べたいものが違う。



「ねぇねぇ、お母さん。

 今日、どこで買い物してきたの?」



「近くのスーパーだよ。

 あとセブンイレブン。」



「え、からあげくんは買ってきてくれた?」



「え?

 だって、聞いた時

 何も言ってないじゃない。」



「からあげくん、食べたいな。」



「無理だよぉ。

 買い物して疲れたよぉ。

 そして、今からうどんも作るし、

 瑞季の好きな春雨サラダ作るから

 それで許して!」



「えーーー…。」




 母は、瑞季の要望をよそに

 お昼ごはんを作り始める。

 ざるうどんと、

 瑞季の大好きな春雨サラダを

 トントントンとまな板で

 きゅうりとハムを切る音が響くと

 リビングから何かが聞こえてきた。


 

「からあげくんが食べたい。

 からあげくんが食べたい。

 からあげくんが食べたい。

 からあげくんが食べたい。

 からあげくんが食べたい。」


 こたつの敷布団に顔を伏せて

 何度も魔法のように唱え続ける。



「今日は無理。

 明日なら買ってくるよ!」



「そうだよ。

 瑞季、歩いて買っておいで。」


 父がいう。


「やだぁ。

 買ってこい!」


 クッションを投げる。


「口悪いお願いは、

 絶対買ってきたくない!」

 

 母は台所で叫びながらご飯を作り続ける。


「だって、今日、

 具合悪くて休んでるんだよ。無理だよ!」


「具合悪い人、からあげくんみたいな

 脂っこいの食べられないでしょう。」



「だって、

 プレーン味とチーズ味と

 新しい味食べたいんだもん!!」


「そういや、今のからあげくんは

 BBQ味らしいよ?」


 母は、スマホでローソンの

 からあげくん情報を知っていた。



「えーー、食べたい。

 絶対食べたい。

 いますぐ食べたい。」


「瑞季、塩おにぎりって言ったじゃない。

 ほら、ざるうどんもできたし、

 大好きな春雨サラダも作ったよ。」


「ほらほら、食べるよ。

 いただきます!」


 父は、お腹を空かせてたようで

 すぐに箸を持って食べ始めた。


「ぶぅー。」


 口を膨らませては瑞季は

 箸を持って、

 春雨サラダの入った皿を持って

 食べ始めた。


「いただきますぅ。」


 不機嫌そうに言う。


「いただきます。

 からあげくんは明日買うから。

 おにぎり食べなよ。」


 瑞季は、

 春雨サラダをチュルチュルと食べると、

 コンビニの塩おにぎりのパッケージを

 開けて、一口食べた。


 

「おいしくない。

 何か、塩が多い。

 しょっぱい。」


「えー、調子悪いからじゃないの?」



「ローソンの方が良かったんだ!」



「そんなことないよ。

 たまたま塩加減が体に合わないだけだよ。

 前食べた時、美味しいって言ってたよ。

 からあげくんが食べたいからって

 そう言うんだから。」


「もう、お腹いっぱい。」


 春雨サラダは全部食べて

 ざるうどん食べたいと言っていた

 瑞季はほぼ残している。

 塩おにぎりは半分食べて残していた。


「このめんつゆは

 白だしだから、美味しい!」


 うどんは食べずにつゆだけ飲んで

 終わりにしてる。



「えー?

 このつゆの方が味濃いと思うけど。」


 父が言う。


「まぁ、美味しいって

 言うんだからいいじゃないの?

 よくわからないけど。」


「ごちそうさま」


 瑞季は、食べ終えて、

 こたつに横になった。

 病み上がりで

 まだ本調子ではないようだ。


 母はため息をついて

 食器を片付けた。


(明日は買ってきてあげよう。

 からあげくんを思う存分…。)



 そう思いながら、

 瑞季の母は手を握って決意した。





【 完 】


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からあげの魔法 もちっぱち @mochippachi

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