5-2.龍鳴会の晩ごはん



「美味い! こんな美味いカレー食った事ねぇ!」



「なんじゃこりゃあ!? これ誰が作ったぁ!?」



「このピリッとする辛さ、その後に感じるほんのりとした甘さ! たまらん! おかわりじゃあ!」



「おいテメェ何杯目だ!? 少しは遠慮しやがれ!」



「んだとコラァ!」



「ちょっと! まだたっぷりカレー残ってるんで、ケンカしないで下さい!」



 揉めそうになる2人からカレー皿を受け取って、一緒にカレーを作った大柄な組員、梅さんに渡す。



 戦場。



 龍鳴会の食事風景はその言葉通り。


 このままのペースでおかわりが入ると、お米が無くなる。今のうちに追加で炊いといた方いいな。



「あいたたたたっ!?」



 なんてことを考えていたら耳に激痛が走った。



 耳を引っ張られた方にいたのは、眉を八の字に曲げた女性。



 淡い水色の着物、肩の辺りまで伸ばした金の髪。それに凛々しく美しい整った顔立ち。



「テメェ、何してる?」



「その声......竜崎さん!?」



「あ? そうだけど? なに驚いてんだ?」



「え、や、だってその格好......」



「ああこれか? 楽だから家ではいつもこの格好なんだ」



「そ、そうなんですか......」



 ひらひらした薄手の着物の隙間から白い肌が見えて目のやり場に困る。



 こんな事言うのはあれだけど、竜崎さんの身体つきはかなり女性っぽい。



 その、出てる所はちゃんと出てるっていうか......てか、なんでみんな女の子って気づかないんだろう? 自分もだけど。




「そんな事より、お前何やってる?」



「えーっと......」



「す、すいやせんお嬢! 勇人は悪くありません! 自分が勇人にお願いしたんです!」



 睨む竜崎さんになんて話そうか迷っていると、梅さんが自分と竜崎さんの間に割って入ってくれた。



「今日の料理番、自分だったんですが、料理は苦手で......それで偶然話した勇人が料理が得意ってんで、手伝ってもらったんです」



「てめぇ、仮にも客人に家事やらすとは、どう言う了見だ!」



「待って竜崎さん! 梅さんは悪くない! やらせて欲しいって頼んだのは自分なんだ!」



「勇人......」



「そうだったのか? ならいいが......いや、よくねぇな。しつけが必要だ」



「え? うわっ!?」



 不意にネクタイを掴まれ、顔を引き寄せられる。


 竜崎さんの鼻が自分の鼻に当たりそうなぐらい近い。



「勇人。テメェはオレの舎弟だよな?」



 舎弟。



 さっき会長の前で言われたことを思い出して首を縦に振る。



「そう。お前はオレの舎弟。つまりオレのもんだ。勝手な事するのは許さねぇ」



「そんな理不尽な......」



「あ? なんか文句あんのか?」



「ありません」



 鋭すぎる眼光に即座に肯定。するとネクタイにかかっていた力が弱くなった。



「なんかしたいんなら、これからはオレに許可を取れ。それと竜崎さんはやめろ。たくみでいい」



「呼び捨てはちょっと......」



「そうか? なら兄貴でもいいぞ」



「たくみって呼ばせてもらいます」



「よろしい。じゃあ早速オレから1つ命令だ」



 ニカっと笑ったたくみが空になったお皿を差し出した。



「おかわり。これめちゃくちゃ美味いぞ」



「はいっ! ありがとうございますっ!」



「おおい! これに関しちゃ、お嬢と言えども譲れねぇ!」



 たくみから皿を受け取ると、その上に辰さんが重ねる。



「オレもおかわりだ! ご友人! これ、メチャクチャ美味ぇぞ!」



 こんな賑やかで楽しい食事はいつぶりだろう。



「みなさん落ち着いて! すぐにおかわり用意しますから!」



 家、帰りたくないな。

 


 ここに連れて来られた時とは真逆の感情に戸惑いながら、カレー皿を持って厨房に移動した。



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