1.逃げたい。全てを捨てて、今すぐに



 逃げたい。全てを捨てて今すぐに。


 こんなこと思ったのは、15年の人生で初めてだ。



「おい鹿山かやま



 目の前の机からまるでなにか破裂したみたいな爆音が鳴る。



 静まり返る昼休みの教室。



 自分の真正面にいるのはもちろん竜崎君。



 真っ赤な顔。


 混じりっけない綺麗な金髪を後ろでまとめたアンバンヘアー。


 そしてひたいにはぶっとい青筋。


 まるで地獄から来た使者のようなうなり声に身体が勝手に震え出す。



 竜崎君とはクラスメイト。


 

 とっくに身バレしているので、逃げたくても逃げられない。



 保健室に搬送された自分が教室に戻るのを待っていたのは、『殺す』と書かれた顔面を引っさげた竜崎君。



 そのただならぬ殺気に教室全体が凍りついている。



「.........放課後」



「はい!」



「放課後、体育館裏に来い。逃げたら、わかってんだろうな?」



「.........はい」



「それとテメェ.........あ、あああ、あんな事して、タダで済むと思うなよっ!」



 怒声。瞬間、宙を舞う自分の机。



 蹴り飛ばした竜崎君が教室を出て行くのをボーッと目で追う。



 あんな事。


 あんな事、ねぇ。


 つまり、やっぱり、『あれは』そう言う事なんだろう。



「おい鹿山! おまえ何やった!?」


「竜崎君、ブチギレてたぞ!?」


「お前の机、3メートルぐらいブッ飛んだんじゃね!?」



 鹿山君の退出後、一部始終を見届けたクラスメイト達が一気に自分の所に寄ってくる。



「......なんでもないよ」



 言って床に散らばった教科書やら筆箱を拾う。



「なんでもない訳あるか! いいから言えって!」



 転んだ拍子に竜崎君のおっぱい揉み倒しました。



 なんて言えるかぁ!



 てか、待て。ちょっと落ち着け自分。



 竜崎君は男。



 男、だよね? .........あれ? ひょっとして自分がそう思ってるだけ?



「......ねえ、みんなに1個聞いていい?」



『なになになに!?』



 床に向けていた視線を上げると、津波のように押しかけてきたクラスメイト達が目を輝かせて何度も力強く首を縦に振ってくれた。



「竜崎君って、男、だよね?」



『............』



 静まるクラスメイト。



 一瞬、辺りに目を配らせたのち、再びみんなの視線が自分に集まる。



『え、そうでしょ?』


 

 .........だよね。



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