第334話 最後の勝者を決める戦い
甲子園決勝、全国4670校の頂点を決める試合は、昨年度に春夏連覇を果たした大阪桐正と、今年の春の選抜甲子園に優勝し、初の春夏連覇がかかる湘東学園の試合。見る人からすれば順当な決勝戦なのかもしれないし、実際に2校とも順当に勝ち上がって来た。
こういう大会で、最後まで笑っていられるのは1校だけだ。今大会に参加した4670校の内、4669校は頂点に至るまでの過程で負ける。春の選抜甲子園の決勝という舞台で、完全試合を食らっている大阪桐正は、かなり優紀ちゃんに絞って特訓して来たと思う。
湘東学園 スターティングメンバー
1番 二塁手 木南聖
2番 左翼手 伊藤真凡
3番 三塁手 実松奏音
4番 一塁手 江渕智賀
5番 中堅手 勝本光月
6番 右翼手 高谷俊江
7番 遊撃手 水江麻樹
8番 捕手 梅村詩野
9番 投手 西野優紀
その証拠に1回表、大阪桐正の攻撃で早くも完全試合どころかノーヒットノーランすら消える。ワンナウトからヒットを打たれて、ワンナウトランナー1塁。それがツーアウトランナー1塁となって、4番の根岸さんがバッターボックスに入る。
……選抜では決勝まで隠していたナックルを決め球として投げて根岸さんも打ち取っていたけど、今回は初球のナックルが外れ、カウントが1-0となって2球目、内に入るスライダーを捉えられて左中間へ。
1塁は空いてないし、根岸さんを敬遠するという選択肢はなかったんだろうけど、結果的には敬遠が一番良かったかもしれない。1塁ランナーは3塁を回って本塁に突っ込み、フェンス際で捕球したセンターの光月ちゃんが中継の水江さんにボールを送った頃には、ランナーはホームへ滑り込んでいた。根岸さんのタイムリーツーベースヒットで、大阪桐正が1点を先制する。
「ツーアウトー!次のバッターで打ち取るよー!」
前の試合では完全試合を出来た相手に、あまりにもあっさりと失点をしたことで優紀ちゃんも動揺するかなと思ったら、わりと元気にバックへ声かけをしていた。しかし続く5番は、今大会絶好調の中口さん。そしてカウント1-1から優紀ちゃんが投げたカーブを、待っていたかのように捉えた中口さんは、打球を三塁線上へと飛ばす。
三塁ベース上を飛ぶような鋭い打球を、私は右に飛んでノーバウンドで捕球した。危ない危ない。下手したら長打コースで、2点目を与えてたね。これでスリーアウトになって、大阪桐正の攻撃は1点止まり。しかし良い当たりが多かったし、何かを見切られているかな。
「七條さん、何か優紀ちゃんのモーションで変なところとかある?」
「それはないと思いますけど……中口さんのスイングが明らかに遅い球を狙って待ったスイングになっていたのは気になりますね」
「え?何か私変な癖ついてる?」
「優紀ちゃんは心配しなくて良いよ。仮に癖とかが見つかっても教えないし、変に癖を意識して本当に癖を作ったら意味ないからね」
マネージャーの七條さんに確認の意味で優紀ちゃんのモーションについて聞いてみるけど、七條さんも優紀ちゃんに癖とかがあったらもっと早く言ってるだろうし、やっぱり変な癖はないとのこと。でも七條さんも、あの中口さんのスイングには違和感を持った。明らかに来る球が、分かっているようなスイングだ。
「とすると……解析されたのは詩野ちゃんだね」
「……パターン分けも含めて、全部解析されたかもね」
「詩野ちゃん自身もそう思った?」
「根岸に打たれた時にはもしかしてと思ったけど、中口に待たれていたのを見たらもう明らかだよ」
こうなると、解析されたのは優紀ちゃんではなく、詩野ちゃんのリードの方になる。しかし完璧に解析済みだとしたらもっと打ち込まれてないとおかしい。もしも優紀ちゃんの投げる球種やコースが分かるなら、大阪桐正打線が1点で終わるわけがない。
「ちょっとリードに関しては考えておくけど、カノンはネクスト行ったら?」
「おおっと、そうだった。ひじりんは、三振かな」
1回裏の湘東学園の攻撃は、1番のひじりんだけど三振して帰って来た。とうとう根岸さん、140キロを投げたみたいで、ひじりんはバットを掠らせたみたいだけどきっちり捕手にキャッチされた模様。
続く真凡ちゃんは軽くバットを合わせ、サードの後方に落とすヒットを打つ。2塁まで行けるかと思ったけど、向こうのレフトのバックアップが早いし、あのレフトは肩が良いと事前情報が入っているから無理して2塁は狙わなかったね。
ワンナウトランナー1塁で、私の打席は当然敬遠。湘東学園を0点で抑えきれば勝てる大阪桐正は、無理して私と勝負する場面じゃないね。続く智賀ちゃんも敬遠されて、ワンナウト満塁で光月ちゃんの打席。
ここで御影監督は、スクイズのサインを出した。滅多に出ないサインの中で、ほぼ使わないスクイズのサインとか光月ちゃんは覚えているかも怪しかったけど、ちゃんと光月ちゃんは前へ転がす。
真凡ちゃんのスタートは良く、ホームへ滑り込んで1点を返し同点に。ただ光月ちゃんは普通に1塁でアウトになったので、ツーアウトランナー2塁3塁に。ここで高谷さんが打席に立つけど、振り切って当たった打球はセンター正面。
試合は1対1で、2回表の大阪桐正の攻撃を迎える。結局詩野ちゃんと相談できなかったけど、大阪桐正が詩野ちゃんのリードを読んでいるなら裏をかきたい気持ちはあるし、その裏をかくタイミングすら解析されていそうな怖さもある。……最悪、坂上さんを出すのも手だけどそれだけは私としても嫌だな。
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