第316話 春季関東大会初戦
GWの春合宿が終わった後、春季関東大会が始まる。ベンチ入りメンバーに関して、北条さんが怪我で離脱したために番匠さんが1軍に合流し、投手と野手の数を揃えるために尾崎さんが2軍に落ちて2軍から桧山さんが上がってきた。
1番 西野 優紀
2番 梅村 詩野
3番 江渕 智賀
4番 木南 聖
5番 実松 奏音
6番 水江 麻樹
7番 伊藤 真凡
8番 勝本 光月
9番 高谷 俊江
10番 春谷 久美
11番 島谷 浩美
12番 宮守 瑞輝
13番 坂上 清香
14番 牛山 惠美
15番 桧山 みさ
16番 熊川 茉莉
17番 関口 賢美
18番 中谷 雅子
19番 番匠 留佳
20番 塩野谷 夢未
県大会の時とは若干代わった面子で、春季関東地区大会に挑む。初戦の相手は、去年の秋でも戦った咲進学園で、2年生エースの川江さんは最速134キロの速球派右腕。コントロールは良く、昨年の秋同様、変化球は2種類のカーブ。それに加えてカットボールを投げるようになっている。
「厄介な投手が、順調に成長しているわね」
「ここ数年、どんどん最高球速の速い投手が増えているからね。怪我で潰れる選手が少なくなったから、球速自体はインフレしているよ」
最近は、怪我で選手生命を絶たれることが少なくなってきた。そのために速い球を投げる投手や、凄い変化球を持つ投手が故障せずに高校野球を続けている、という状況になっているんだと思う。
今日は1番バッターの真凡ちゃんが、木製バットを肩に背負ったまま川江さんを見つめる。あの厄介な投手は今年の秋以降、湘東学園の脅威になりそうだね。
湘東学園 スターティングメンバー
1番 左翼手 伊藤真凡
2番 右翼手 高谷俊江
3番 二塁手 木南聖
4番 三塁手 実松奏音
5番 一塁手 江渕智賀
6番 中堅手 勝本光月
7番 投手 番匠留佳
8番 捕手 塩野谷夢未
9番 遊撃手 水江麻樹
今日の打順は番匠さんがかなり打てるタイプの投手なので、それに合わせて御影監督が弄った感じ。初回、真凡ちゃんが三遊間を抜けるヒットを打つけど、高谷さんの打球はセカンドゴロで、ランナーが入れ替わってワンナウトランナー1塁。
この場面で、高谷さんは盗塁を仕掛けたけど結果はアウト。高谷さんの足で挑んで余裕を持ってアウトだったということは、私でも成功するかは怪しいかな。あのキャッチャー、埼玉県大会では目立った守備をしてなかったのに、凄い送球だったな。
3番のひじりんは、カーブに詰まってピッチャーゴロ。2種類のカーブを投げて来るけど、曲がり始めまでの差がほとんどないから嫌らしい。あれだけで、相当打ち辛いピッチャーなのにストレートの平均球速も速いからそう簡単には点を取れなさそう。
そして1回裏、守備に就く私達湘東学園は、期待の1年生をマウンドに上げる。今日は中学時代、全くの無名だった番匠さんの名が、関東中に知れ渡る日だね。
春季関東大会1日目第1試合。湘東学園の攻撃が無得点に終わった後、番匠がマウンドに上がると、球場内のあちこちで小さな騒めきが起こる。捕手の塩野谷の方はそれなりに名が売れていたが、番匠の方は全く知れ渡っていなかったからだ。
しかし湘東学園が先発を任せた1年生である以上、生半可な投手ではないという予想が観客達には少なからずあった。その観客達の予想は当たり、番匠は初球の速球で、135キロをマークする、1つ上の世代の速球派投手である咲進学園の川江の速球が134キロだったことを考えると、この球速は異常だった。
テンポよく番匠は2球目、3球目、4球目と投げるが、いずれもストライクは入らず、ストレートのフォアボールを相手に与える。ここで塩野谷が、マウンドに駆け寄った。
「ああ?なんだよ。サイン通りだっただろ?」
「うん、でも不機嫌そうな顔をしていたから、目的は説明しておいた方が良いかなって。
バックネット裏を見てごらん」
「は?」
塩野谷に対して、怪訝そうな顔をする番匠は言われるがままに顔を上げ、バックネット裏を見る。観客席はどこも埋まっており、特段バックネット裏は人が集中していた。
「今日の試合は、全国にネット配信されるしテレビ放送もされる。直接見に来ている神奈川の強豪校や、関東圏以外の強豪校も来てるね」
塩野谷の言葉に、昨日の奏音の言葉を思い出す番匠。奏音は「全部勝ちにいくけど、余力を持って勝利する」と言っていた。
「今日の試合では、例の暴れ球一本で良いよ。それに適度に四球のサインも出すから、ペース配分には気を付けて投げてね」
「……なんかこう言うの、気に食わねえな」
「気持ちは分かるけど、だからこそ出番を貰えたと思おうよ。……次のバッターから、ど真ん中勝負で良いよ」
「おう」
塩野谷が元の位置に戻り、試合が再開されると今度はど真ん中へ速球を投げ込む番匠。その打球を捉えられ、レフト方向への打球になるが、奏音が飛びついて処理し、ファーストへ送球してアウトにした。
「退屈ですか?詩野さん」
「別に。番匠が一番気持ちよく投げられるの、塩野谷相手の時でしょ。そこは分かってるよ」
ベンチにいる2人の3年生、春谷と梅村はベンチの最前線で試合を見守る。番匠は気持ちの持ちようがピッチングに大きく影響するため、相性を考慮され番匠が登板する時は塩野谷が捕手をすることになっていた。
「にしても、135はヤバイね。カノンが気に入るわけだよ。私はコントロールが苦手なピッチャー、あまりリードしたくないけど」
「あれでコントロールが悪くなければ無敵ですよ」
続く3番と4番を、連続して内野フライに打ち取った番匠は、初回を0点に抑える。試合は0対0のまま2回表を迎え、先頭バッターである4番の奏音が、川江のストレートを場外まで運んだ。
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