第295話 決勝の相手
「2年連続で、同じところに負けて甲子園を去るってどんな確率よ……」
「大阪桐正のせいで、そういうところは珍しくないでしょ」
「はぁ……せっかく春と夏のリベンジが出来ると思ったのに」
「ああ、そっちからするとまとめて借りを返すチャンスだったんだ」
試合終了後、裕香ちゃんが北条さんを盗ったことに文句を言ってきたけど、たぶん来年以降も神戸ガールズから有力な選手は何人か入って来るんじゃないかな。北条さんは昨年の神戸ガールズのキャプテンで、ガールズ全国大会準優勝に導いている。
「にしてもこちらの選手を詳しく分析し過ぎでしょ。苦手な球速、苦手コース、苦手な球種。牛山さんですら分析されていたし、もしかしてベンチ入りの選手全員分析してた?」
「当たり前でしょうが。ちなみに一番分析をしたのはカノンよ。一番分析した結果、絶対に勝負しないって結論になったけど」
裕香ちゃんは私を一番分析していたと言ったけど、要するにはじめは勝負をする気があったみたい。勝負する気がハナからないなら、分析する必要はないからね。
決勝戦も、全打席で敬遠はされるはず。ただ超満員の決勝戦、そのマウンド上で、野次を飛ばされながらコントロールを乱さずに敬遠することは難しいと思う。少しでもコントロールを乱してくれて、バットが届く範囲に来たら打てるかな。
夏の甲子園でまた会うことを約束して、球場を出る。現地で次の試合を観戦するのもありだけど、今日は反省する点が多かったからね。結局今日の試合で出たヒットは、初回のひじりんの内野安打と智賀ちゃんの敬遠球打ち、そしてなかやんのソロホームランの3本だけ。……ぶっちゃけなかやんが今日のMVPだと思う。
ストレートだけに絞って思いっきり振ったとは言うけど、ストレートに絞ってもコースギリギリに決まる135キロの球を打つのは難しい。向こうにとっては事故みたいなものだったと思うけど、今日は素直になかやんを褒める。これは決勝の舞台で、高谷さんを使うか中谷さんを使うか迷う。
「統光学園は、当然友理さんが先発だね。大阪桐正は根岸さんが先発だから、ベストメンバー。どっちが来ても、手強い相手だよ」
「どうせなら、神奈川県勢の決勝戦をしたいわね。去年の意趣返しにもなるし」
「去年の大阪勢は、頭おかしいぐらいに強かったからね。でも今年は、大阪桐正以外怖くないよ」
「その大阪桐正って、今期の甲子園で優勝すると3期連続の甲子園優勝になるのよね。これって史上初なの?」
「史上初だよ。それだけ3期連続ってのは難しいし、成し遂げるのは様々な要素と運が必要になると思う」
真凡ちゃんが甲子園の3期連続優勝について触れるけど、今までそれを成し遂げた高校はいない。しかし大阪桐正は、昨年で連覇をしているからこれが3期目だ。大阪桐正の甲子園決勝での勝率は、7戦7勝。つまり過去7回、決勝でだけは負けなかったという実績もある。そんな高校が決勝に来るよりも、戦い慣れた統光学園が相手の方がこちらとしてはありがたいけど……。
初回、ツーアウトランナー1塁の状態から根岸さんが友理さんのお化けスライダーを捉えてスタンドまで運ぶ。あの4番でエース、今回の甲子園では私以上に目立っているんじゃないかな。私は敬遠が本当に多くなったし、あの大阪桐正で4番でエースは普通に目立つ。
根岸さんと友理さんの投げ合いになるかと思ったら、1回裏の統光学園の攻撃も積極的な盗塁と走塁のお蔭で1点を返す。初回から点の取り合いになって4回表。大阪桐正の1年生、中口(なかぐち) 明日翔(あすか)さんがホームランを打って5対2と3点差にする。両校の投手の出来は良いのに、打撃戦になるのは単純に両校の打線が強いからだね。
しかしあの1年生、どこかで聞いたことがある名前だと思ったら一昨年のU-15世界大会の準MVPだ。ひじりんや光月ちゃんは知っていたみたいだけど、ガールズじゃなくてシニアの選手だから詳しく把握してなかった。
「シニアの県大会では170メートルの場外ホームランを打って神社を破壊していますね」
「へえ。場外ホームランのエピソードがあるのか」
「カノンさんも、似たようなエピソードはいっぱいあるじゃないですか」
「弁償したり謝ったりと、場外ホームランは基本的に散々だったから当人としては思い出したくない記憶だよ」
久美ちゃんが情報を教えてくれるけど、こうやって下の世代の情報を聞いていると、下の世代でも凄い選手は出てきているんだなと実感をする。試合は6回表から統光学園は新開さんが継投し、大阪桐正は6回裏から外野手だった中口さんが継投する。……あの1年生も、投手出来るんだね。しかも最速131キロって、厄介な選手がまた大阪桐正に行ってるよ。
「私達の下の世代は、大丈夫かな」
「下の世代を心配するより、明後日の心配をしなよ。あ、明後日って新1年生が入って来る日だよね?」
「うん。入寮式の日だから、たぶん私達の試合を観戦でもするんじゃないかな。その後、2軍と試合をすることになってる」
「……へー。面白そうだし、誰かビデオ撮ってくれないかな」
明後日は決勝戦の日だけど、詩野ちゃんの言う通り待望の新1年生達が入寮してくる日だ。ちなみに当日のスケジュールは把握しているけど、2軍との試合は新1年生達がぼこぼこにされるだけじゃないかな。でも面白そうだし、誰かビデオで撮ってくれないかな。当日の審判をする、萩原監督に任せようか?
準決勝第2試合は両校が継投をした後も点を取り合い、大阪桐正が8対4で勝利する。この圧倒的な横綱感は、大阪桐正って感じがするね。これで明後日の決勝戦の相手も決まって、後は決勝に向けて調整をするだけ。幸い高谷さんの足のケガは決勝に影響無さそうだし、詩野ちゃんの切り傷は試合に影響しないはず。決勝は、ベストメンバーが全力を尽くすよ。
そして選抜甲子園の決勝の日、スタメンが発表される。先発はもちろん、優紀ちゃんだ。
湘東学園 スターティングメンバー
1番 右翼手 高谷俊江
2番 二塁手 木南聖
3番 左翼手 伊藤真凡
4番 三塁手 実松奏音
5番 一塁手 江渕智賀
6番 中堅手 勝本光月
7番 遊撃手 水江麻樹
8番 捕手 梅村詩野
9番 投手 西野優紀
前日の試合でホームランを打ったなかやんだけど、今日はたぶん代打で出ることになるかな。一発に賭けた方が良いかもしれないけど、光月ちゃんを6番に置いた方が最終的に点は取りやすいという判断だ。今日も勝って、絶対に優勝旗を湘東学園に持ち帰るよ。
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