第270話 咲進学園
今年の関東大会の1回戦は1位対2位の組み合わせで、2位が勝つ光景が見られなかった。1位対2位の組み合わせは、1位対3位も含めれば6つ出来上がるから、大抵1つか2つは2位の方が勝つけど、今年は神奈川の2位が千葉の2位と戦っているからか全滅している。
注目の統光学園と多久大光陵の試合は統光学園が6対2で勝ち、2回戦は統光学園対東甲斐大甲府になった。私達湘東学園の2回戦の相手は、栃木1位の咲進学園。今年の夏は甲子園の1回戦で大阪桐正と当たり、12対0で1回戦で負けたところ。
咲進学園の甲子園の出場回数は24回で、甲子園優勝経験も3回あるから選手は集まりやすい。史上初の甲子園春夏連覇校という功績は永遠に消えないものだし、紛うことなき強豪校だ。
1回戦に続き、2回戦も湘東学園は先攻になり、1回表の湘東学園の攻撃。相手のマウンドには、大柄な1年生が登る。咲進学園は昨日の1回戦で、背番号1番を背負ったエースを使った。勝負所は間違いなく2回戦なのに、1回戦にエースを使って2回戦に1年生を使う理由なんて1つしかない。
「川江(かわえ) 卓美(たくみ)さん、か。島谷さんは中学最強の左腕だったけど、中学最強の投手では無かった理由だね」
「何で川江さんが、エース番号を付けて無いのかしらね?最速133キロって、1年生が投げて良い球じゃないわよ」
「……まあ、球速だけで投手能力の比較は出来ないからね。栃木大会の準決勝では、5回までとはいえノーヒットピッチングだったけど」
真凡ちゃんがエース番号を付けて無いのを不思議がるぐらいに、川江さんは良い投手だ。1つ下の世代で、島谷さんが中学最強の左腕ではあったけど、中学最強の投手じゃなかった理由は川江さんがいたからだ。というか、右なら川江さん以外にも良い投手は多い。
コントロールはかなり良く、カーブ系の変化球を2球種投げ分けているようで、私達の1つ下とは思えないほどの完成度のピッチャーだ。しかし先頭バッターの聖ちゃんは、追い込まれてから何とか食らい付いてファールで粘る。
湘東学園 スターティングメンバー
1番 二塁手 木南聖
2番 中堅手 勝本光月
3番 左翼手 伊藤真凡
4番 三塁手 実松奏音
5番 一塁手 江渕智賀
6番 右翼手 高谷俊江
7番 遊撃手 井原美琴
8番 捕手 梅村詩野
9番 投手 西野優紀
昨日の結果と、相手の先発が川江さんということで川江さんと対戦経験のある聖ちゃん、光月ちゃんを1番2番に据えた。ただ対戦経験があると言っても全国大会で1回戦っただけだし、その時とはストレートの勢いが違うと光月ちゃんが言っていたから打てるかは微妙な感じ。
昨年、全国制覇した神戸ガールズを6回2失点で抑えているから、もし川江さんのチームが貧打じゃ無かったら神戸ガールズは負けていたんだよね。散々粘った聖ちゃんは、結局ファーストゴロに倒れる。132キロの直球は、手元で伸びているようで完全に打ち損じている。
……1年の夏から甲子園のマウンドに立たせておけば、大阪桐正相手でもそれなりに抑えたんじゃない?部員数の多い強豪校は、そういうことをするのが難しいってことは分かるけど。光月ちゃんもドロップカーブに詰まって、セカンドゴロになってツーアウトランナー無し。
3番の真凡ちゃんが打席に立ち、私はネクストバッターズサークルで川江さんの投球を見るけど、低めギリギリにカーブを決めに来るからコントロールには相当自信があるのだと思う。それでいて最速133キロは凄いし、まだ1年生だから再来年の夏まで咲進学園は安泰だね。
左バッターの、内角低めに落差のあるカーブを決めてカウントは1-2。あっさりと追い込まれた真凡ちゃんは、最後のストレートを軽く流して三遊間を抜く。最近の真凡ちゃんを見ていると、出会った当時の真凡ちゃんが信じられなくなってくる。
ツーアウトランナー1塁になって、4番の私とは勝負をする雰囲気を見せる川江さん。初球、130キロのストレートが外角低めの際どい所に来てボール。
1年生でこれだけのコントロールを身に着けているのは、投げ込みの賜物だろうし、カーブを自在に操るのも素直に凄いと思う。だけどまあ、相手が悪い。
2球目。外角低めに入れて来たカーブを捉えて、打球はバックスクリーンを超える。先制のツーランホームランで、湘東学園は2点を獲得した。
ホームベースを踏み、ベンチに戻ってハイタッチをしていると咲進学園は捕手が投手に詰め寄るような光景が見られる。……バッテリーを組み始めてから、そんなに時間は経ってないのかな?
続く智賀ちゃんは三振してしまって、この回は2点止まり。2対0で1回裏のマウンドには優紀ちゃんが登り、初回からナックルが変化せず2番バッターに長打を打たれ、あっさりと1点を失った。
……あの芳田さん動画の影響で、優紀ちゃんのナックルの変化量は増したし空振りも誘いやすくなったけど、変化しない率も微妙に上がって完成からむしろ遠ざかったんだよね。芳田さんのナックルも変化しない時というのはあったし、仕方ないと言えば仕方ないのだけど、変化球を投げるというのは難しい。
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