第237話 スイス

1試合目で勝利した日本の次戦はスイスで、世界ランクは19位と日本より格下だけど、弱い国じゃないし、日本とは違ってU-18W杯で優勝経験もある。そもそも世界ランクの上位20位に常駐していて、U-18W杯の優勝経験が無いのは日本と韓国ぐらいかもしれない。


……U-15W杯も私が活躍するようになる前は優勝経験が無かったし、日本人は世界的に見て発育の遅い国らしい。スイス代表の面子と対峙すると、そこまで体格に差は無いように思えるけど、向こうの方が身長は高い。


日本代表には約一名、身長145センチと日本の平均身長を大きく下げている子がいるけど、その子は今日もスタメンだ。私も167センチだから、そこまで大きいわけじゃないけど。それでも高校3年生になれば170センチぐらいまでは伸びるかな。



スイス戦 U18W杯日本代表 スターティングメンバー


1番 左翼手 伊藤(湘東学園・2年)

2番 DH  本城(湘東学園・3年)

3番 一塁手 山村(履陰社・3年)

4番 中堅手 実松(湘東学園・2年)

5番 右翼手 大村(大阪桐正・3年)

6番 遊撃手 荻野(宝徳学園・2年)

7番 三塁手 内河(履陰社・3年)

8番 捕手  森友(大阪桐正・3年)

9番 二塁手 赤石(山梨学園・3年)

投手 藤波(大阪桐正・3年)



……野球に、身長は関係無いと言い切れない。基本的には高身長の方が有利な野球というスポーツで、真凡ちゃんの存在は異質でもある。


スイスとの試合は日本が後攻となり、先に守備に就く。DHからレフトに戻された真凡ちゃんは、今日は最初から守備の時も張り切っていて可愛らしい。しかし、レフトにボールが飛んでくることは無かった。


それどころか、外野にすら飛んで来ていない。1回表、藤波さんはスイスの上位打線を三振、キャッチャーフライ、三振の三者凡退に抑える。日本人高校生としては最速タイ記録となる141キロをマークし、球場を騒めかせた。


スイスのエースも142キロの速球を投げるけど、藤波さんほどのコントロールも無ければ変化球もイマイチだ。それに比べて、藤波さんはテンポ良く投手有利のカウントを作れる投手だから、森友さんもリードしやすいだろうね。


しかし、コントロールが悪いというのは決して悪いことでは無い。


「駄目ね……1番を任されたのに、全然ボールを捉えられなかった」

「今日の相手投手の荒れ具合は、ヤバいからね。本当は国際試合にああいうのを、出して欲しく無いよ」


今日のスイスの先発は、その142キロを投げられるエース。1敗して後が無くなったから出したのか、元々勝ち目の薄いドミニカ戦を捨てて日本戦、イングランド戦の勝ち星を優先したのか分からないけど、日本にとっては厄介な状況になった。


インコースギリギリ、あわやデッドボールになりかけるコースの次に、アウトコース一杯に決まる速球を投げられ、真凡ちゃんはピッチャーゴロ。恐らくインコースとアウトコースを交互に投げているんだろうけど、コントロールが悪すぎて目安にしかなってない。


というか、投球練習の時点で審判の頭の上を越えていった暴投があったからね。当たったら1塁へは行けるけど、あの剛速球が身体に当たるのは私でも怖い。


それでも本城さんはアウトコース高めのストレートを流して、ライト前へ運ぶ。ワンナウトランナー1塁で、右の速球派には滅法強い左の山村さんを打席に迎えた。山村さんは、3球目に真ん中高めに来た140キロの直球を捉える。


打球はあっさりとセンター方向のフェンスを越え、ツーランホームランになった。……この人、私や藤波さんのストレートもホームランにしているんだよね。履陰社が甲子園に出ていたら、結果はまた違っていたと思う。


2対0と早速リードをした日本は私が打席に立ち、初球。ど真ん中に来た球をバックスクリーンにまで打ち返し、3対0。大村さんや裕香ちゃんも続いて、内河さんがランナーを一掃するタイムリーツーベースを打ち、初回から日本は5点のリードを奪った。


「ないすほーむらん。私の時だけやたら厳しいコースに来たのに、高めが続くわね」

「コントロールが悪い速球派投手は、ストレートが真ん中へ行くことも多いよ。国内だとそれでも通じるだろうけど……速球が通じなくなると、どうしようもないほど打たれるね」

「これは、打者一巡しそうね。あっ!?」

「げっ」


しかしワンナウトランナー2塁から8番の森友さんがフォアボールを選び、1塁へ走っている最中におかしな動きをする。どうやら足を痛めたようで、負傷退場になった。


岡沢監督は、迷わず代走に篠宮先輩を送る。そのまま守備にも就かせるつもりだと思うけど、藤波さんの球を受ける人が森友さんから篠宮先輩に代わったのは大きい。動揺もあるだろうし、続く赤石さんの打球が好守に阻まれて併殺になってしまったことで嫌な雰囲気は増す。


……怪我は、出てしまうものだから仕方ない。それでもこのタイミングで森友さんが負傷したのは不味いし、怪我がどの程度のものなのかは気になってしまう。


森友さんが抑えていたのは右足の太腿だから、肉離れかアキレス腱を痛めた可能性は十分にあるし、特に同じ大阪桐正の藤波さんや大村さんへの影響は計り知れない。

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