第227話 切り替え
軽くブルペンでキャッチボールをしていると、篠宮先輩がヒットを打ってワンナウトランナー1塁3塁となり、9番の内河さんが打席に立っていた。なんか、内河さんの顔つきが今までとは違うね。見て無かったけど岡沢監督が内河さんに「勿体無いぞ」と声をかけたらしい。
……たぶん、楽しまないと損的な意味で言ったんじゃないかな?いや、今までの積み重ねが勿体無い、かな?
試すのが好きな岡沢監督だけど、要するにチャンスを与えるのが好きなんだよね。内河さんも間違いなくドラフトで声はかかる選手だし、今年の履陰社の選抜甲子園準優勝の立役者の1人だ。
今の声掛けで、内河さんもこれがラストチャンスだと感じたはず。すると内河さんは、フェンス直撃のタイムリーツーベースヒットを打つ。今大会で、内河さんは初めて芯に近い部分で打ったんじゃないかな?真凡ちゃんや篠宮先輩はホームに還り、試合は14対5と9点差まで広がる。
続く赤石さんもタイムリーヒットを打ち、15対5で6回裏を迎える。この回からマウンドに上がるのは、2年生左腕の新開さんだ。浦田さんは結局ラストチャンスを活かせなかったけど、だからこそ新開さんにチャンスが回って来た。
最速133キロは、浦田さんよりも早い。そして何より、左バッター相手だと新開さんは絶対的な自信があると言い、実際に左バッターの懐へ変化量の多い変化球を投げ込めているから相手も相当打ち辛い。
この回はテンポ良く新開さんが三者凡退に抑えて、スリーアウトチェンジ。統光学園の2年生投手は、左右どちらも相当ヤバいね。もしかしたら秋の県大会の決勝で戦うかもしれないから、県大会優勝への最大の障壁になるかな。
……関東大会へは県大会準優勝でも行けるから、無理に勝ちに行く必要も無いけど、簡単に負けるのも嫌だしね。
この調子でアジア予選を通過すれば、そのまま9月のオーストラリアでU-18W杯の本戦に出ることになる。本戦の予選では4ヵ国でのブロック予選があって、上位2チームが決勝トーナメントに進出。
決勝トーナメントの決勝戦は、本戦が開始してから2週間後ぐらいだから、どう頑張っても秋の県大会の4回戦までは参加出来ない。統光学園も、4回戦まで友理さんと新開さんが居ないのか。向こうも向こうで、層が厚いから大丈夫だと思うけど。
7回表はまた私の打席からで、向こうも投手を代えて来たけど、ストレートが来たのでソロホームランを打つ。これでソロ、ツーラン、スリーランが揃ったから、後は満塁ホームランでサイクルホームランかな?
一時はかなり迫られたけど、結果的に見れば10点差以上が付く大差だ。8回裏を迎えて、18対5となり私がマウンドに登る。今まで世界大会とかで、マウンドには登ったことが無かったから新鮮な気持ちになるね。
「まさか、カノンとバッテリーを組むことになるとはな。この回のタイ打線は下位からだし、気楽に投げて来て良いぞ」
「私も、篠宮先輩に捕って貰うことになるとは思って無かったですよ。それにしても国際球は、感覚が違いますね」
「何か、投げにくい変化球でもあるのか?代表合宿の時は、コントロールがイマイチだったが」
「投げにくい変化球は無いですけど……逆に、ツーシームを投げたいです。ブルペンでも、よく動いてました」
中学時代、1つ上の先輩として人望も厚かった篠宮先輩とバッテリーを組むことになり、相変わらず敬語かと弄られる。私は、基本的に先輩に対しては丁寧な言葉遣いしかしないからね。
軽く篠宮先輩と打ち合わせをして、1球目を投げ込む。初球はストレートで、球速は137キロ。やっぱりコントロールはし辛いけど、徐々にこの感覚にも慣れて行かないといけない。
2球目にツーシームを投げて、ファーストゴロに打ち取ったのでワンナウト。後続のバッターは二者連続で三振に打ち取り、中盤の慌ただしい感じから一転、また序盤のようなテンポに戻る。
9回裏も、キッチリと3人で抑えて日本代表は19対5で勝利。今日の最速は138キロで、一球だけ高めに外れる抜け球があったからあまり調子の良い結果とは言えない内容だったけど、それでも8回から打者6人で抑えられたのは良かったと思う。
「台湾対中国は、7対2で中国の勝ちか。これでアジア予選Aブロックの上位2国は、中国韓国で確定かな」
「中国もここ数年、U-18W杯は強いのよね?一昔前は上位2ヵ国に入れたことも無かったのに、最近はいつも通過しているし」
「まあ、中国は人口が人口だからね。色々と悪い噂も聞くけど、純粋に野球をする人口が多いから、それだけ競争も激しいし、そろそろ韓国にも勝つかもしれないよ」
タイに勝ったことで、日本の予選Bブロック通過はほぼ確定したものだと考えても良い。Aブロックの方は台湾と中国が2位争いをするかと思っていたら、中国と韓国で1位争いをしそう。
明日のマレーシア戦が、日本にとっては全勝通過の最後の関門かな。そして今日は3本のホームランを打ったので、アジア予選での本塁打数は14になった。1試合平均2.8本とか、そりゃ色々と疑われるよね。
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