第219話 大阪勢

銀光大阪と統光学園の試合は2対1で統光学園が勝利し、大阪桐正と宝徳学園の試合は11対2で大阪桐正の勝利となった。


……復帰した大村さんに加え、湘東学園戦では不発気味だった下位打線が躍動したせいで、エースの真弘ちゃんは4回途中までに9失点。個人的に、真弘ちゃんが虚ろな目で投げ続けていたのは印象的だった。


また、中1日とはいえ藤波さんが宝徳学園打線を2失点で完投している。球数は抑え気味だったけど、連投になる準決勝では投げないだろうし、統光学園にも僅かに勝利の芽は残っている。今日の銀光大阪戦で友理さんは完投したから、それでも厳しいことには変わりないけど。


これで準決勝は統光学園対大阪桐正と、金芦農工対習志野になった。そして世間でも大阪桐正の5打席連続敬遠が表立って批判され始めたのと同時に、金芦農工の快進撃が話題となる。


「秋田県勢が、甲子園決勝まで行くのは第1回大会以来無いそうね?」

「そう。だから99回大会ぶりに決勝に行くかもって、話題になってるね」

「……優勝予想は、されてないのね」

「……決勝の相手が大阪桐正になる可能性は高いし、その大阪桐正の甲子園決勝の勝率は100%だし」

「確か今年の春の優勝で、甲子園決勝での成績は6戦6勝だったかしら?本当に、ふざけた強さね」


真凡ちゃんがその話題に触れるけど、秋田県勢って1回も夏の甲子園で甲子園優勝を果たしてないんだよね。確か、春夏通算でも1回も無いんじゃないかな。一方で、大阪勢の優勝回数は春夏通じて27回。今年で28回目になりそうだけど、その28回中7回が大阪桐正って凄いことだと思うよ。


「ん、待って。電話鳴ってる」

「ハイハイ。


……で、誰からだったの?」

「……おめでとう。真凡ちゃん、代表追加メンバー確定だって」

「……え?嘘!?」

「本当。正式な発表は明後日だけど、銀光大阪のエース福春さんや統光学園の友理さん、広沢さんに加えて真凡ちゃんも選ばれたって」


真凡ちゃんと会話していたら、真凡ちゃんが代表に選ばれたという連絡が何故か私に入る。おめでたいことではあるのだけど、秋の県大会の4回戦まで私と真凡ちゃんが出られないのが確定したね。


でも夏のスタメンの内、4人も残っているなら多い方だと思う。他の高校は、夏のスタメンのほとんどが抜けるから残っても1人や2人だし、湘東学園の1年生の層の厚さは話題にもなるぐらいだから問題は無い。


少なくとも私と真凡ちゃん抜きで、県大会の4回戦までに躓くことは無いと思う。今年の秋の県大会は、統光学園と湘東学園の枠が最初から両端で固定されているから、統光学園と序盤で当たることは無いし、事故も起き辛い。


「という訳で、真凡ちゃんも夏合宿には不参加決定です」

「ん。了解。

糸留さんが来るのって、合宿初日から?」

「うん。合宿初日の朝から来てくれるみたい。詩野ちゃんも、知ってる選手だよね?」

「当然。横浜ベイスタアズにとっては天敵みたいな人だし」


真凡ちゃんも合宿には参加出来ない旨を詩野ちゃんに伝え、ついでにと合宿に来てくれる糸留選手を知っているか聞いてみると、当然知っているとの答えが。メジャーに行かず、年俸だけで40億円を稼いだ女だからどれほど凄いかは成績が物語っている。


高校卒業後から20年に渡る現役生活の末、通算打率.303、安打数2411、本塁打383本、打点1640点で守備も上手い。現役生活の最後の方は、野手陣のまとめ役とコーチも兼任していたみたいだから指導も上手いと思う。


それでいて最終年も12本の本塁打を打っているから、まだまだやれたと思う人も多いんじゃないかな。なおその内の6本は、横浜ベイスタアズ戦で打っている。後は、綺麗な嫁に2人の可愛い娘がいることでも有名かな。


FA権を2回行使し、年俸を吊り上げた姿に対しては印象の良い人が少ないと思うけど……だからこそ、伯母がいくら出したのかは気になった。


「糸留なら、私でも知ってるわよ。京神の選手で、チーム唯一の二桁本塁打だったのに引退した選手でしょ?」

「うん。ジャガーズは圧倒的最下位なのに5番打者が抜けたから、今年も最下位街道を突き進んでいるよ。正直、何で引退したのか聞きたいぐらい。今年で39歳になるから、年齢が理由なのは分かるけど。真凡ちゃんが生まれる前から、プロ野球界で活躍していた人だね」


私達が生まれた時からずっとプロ野球選手だと考えれば、凄い偉業のように思える。実際、20年も続けられる人は極一握りの人だけだし、色々と教えて貰えたら良いね。


合宿の段取りも決まり、合宿の最終日前日と最終日に呼ぶ高校も決まった。計6校との練習試合は、全勝して欲しいかな。中には今年の甲子園に出場していた日大産や、三島東高校も含まれている。秋の地区大会が始まる都合上、地区大会の開始が遅い東京勢や、地区大会には出場しない甲子園出場校が中心になった。


練習試合はもう申し込み多数という状態だし、戦う相手を選べるのは素直に嬉しい。向こうもカノンが居ないと分かっているのに申し込んでいる時点で、湘東学園の注目度が高いことは分かるね。

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