第202話 2回戦開始

大会9日目。ようやく甲子園では1回戦が終わって2回戦に突入する。ここから試合間隔がグッと短くなるのは、純粋に残っている高校の数が少なくなるからだ。1回戦が終わった時点で、64校中32校が甲子園を去ったし。1回戦と2回戦以降の試合数を比較すると、2回戦以降の方が試合数は少ないからね。


ちなみに、宝徳学園も大会7日目に無事初戦突破を果たして裕香ちゃんからご機嫌な連絡が入って来た。相手も強い所だったけど、3対2の接戦を制して2回戦に駒を進めている。真弘ちゃんや篠宮先輩も春より一段と成長してるし、何処も停滞はしてくれない。


「今日から12日目までが2回戦で、13日目と14日目が3回戦。15日目が準々決勝、16日目が準決勝だから、最短で決勝戦は大会18日目だね」


一応、これからの日程の確認だけ行なって出番を待つ。くじで第一ブロックから第四ブロックまでが良いとされた理由は、単純に試合間隔が長いからだね。そして今日の湘東学園の試合は第4試合なので、それなりに待たないといけない。


「今日の第1試合は第一ブロック2回戦の清綾高校対多久大光陵だね。……当然だけど、芳田さんが先発かあ」

「西千葉大会も1人で投げ抜いていますし、本当にタフですね」

「確か、試合中に手を抜いてスタミナを回復しているとか言ってた気がする。今日のナックルもほとんどが半回転以下だし、ヤバ過ぎるよ」

「試合中に、スタミナの回復ですか。……この甲子園の灼熱のマウンドでも出来るのであれば、真似をしてみたいですね」


試合までの貴重な自由時間を、まったり久美ちゃんと観戦していると、2年生組が集まって来る。今日はこの後の第2試合に友理さんが登場するし、第3試合には大阪桐正が登場するから、やっぱり甲子園の試合は気になるよね。


「お。智賀ちゃんの持ってるの、珍しい野球漫画だね。確か双子姉妹のバッテリーが、甲子園目指す奴だっけ?」

「はい。実は中学生の頃、読んでいた週刊誌にはこれが連載されていたんですよ。……野球を始めたいと思った、きっかけでもありますね。真凡さんとキャッチボールを始めたの、これを読んでからですし」

「懐かしいわね、それ。結局、最後は駆け足で甲子園に行って完結だったけど、後味は悪く無かったわよ」


ふと智賀ちゃんの方を見ると、手に野球漫画を抱えていたので、懐かしいなと思いながら話題に触れる。2年前に突如打ち切り気味に完結した野球漫画だけど、そこそこ人気はあったと思う。この野球漫画が智賀ちゃんと真凡ちゃんの野球人生の始まりなら、私はこの漫画の作者に感謝しか無いよ。


「まあ、大体の野球漫画は甲子園に行って終わりじゃない?……2人は実際に、甲子園に2度も来たわけだけど、どう思った?」

「どう思ったって……とりあえず今は、現実が信じられない気持ちにはならなくなりました」

「私も最初に来た時は、現実味が無くてふわふわしていたわ。……今は、甲子園出場と甲子園優勝という目標の差を感じるわね」

「あ、それは私も思った!甲子園出場を目指して頑張って来た高校と、甲子園優勝を目指して頑張って来た高校はやっぱり違うと思う」


2人に甲子園に来てどう思ったか聞いてみたら、1回目はやっぱり夢の中にいるような感覚だったらしい。それも次第に慣れて行って、2回目となる今回は冷静に現実を直視出来ている。真凡ちゃんは甲子園出場校の中での格差というものを感じ、優紀ちゃんもそれに突っ込む。


野球少女は誰もが夢見る甲子園だけど、実際に来てみるとその甲子園出場校の中でも差がある。特に春を経験している所は強いし、甲子園に何度も出場している高校も強いと感じる。この差は単純に甲子園という場所への慣れか、目標や意識の高さの表れか。


ついでに私も野球を始めたきっかけについて聞かれたけど、物心が付いた時からバットを振っていたとだけ答えておく。まごうこと無き真実であり、実際に物心が付いた時からバットは振っていた。正確には、前世の記憶が戻ってから、かな。


観戦を続けていた清綾高校対多久大光陵の試合は、芳田さんが完封して0対3で多久大光陵が勝利し、多久大光陵が3回戦に進出。第2試合は高知の土佐商業と北神奈川の統光学園の試合があり、6対12で統光学園が勝利した。こちらは友理さんの出番がなくて、左腕の新開さんが先発を務めている。


第3試合の大阪桐正対沖田学園の試合は、10対0で大阪桐正が3回戦進出。内容としては大阪桐正の2番手以降の投手陣も強いということを証明するだけの試合となり、迎えた私達の第4試合。相手は富山の強豪、高岡工業だ。


試合が開始して1回表。マウンド上には湘東学園の左腕エースである久美ちゃんが立つ。


湘東学園 スターティングメンバー


1番 三塁手 木南聖

2番 捕手  梅村詩野

3番 左翼手 伊藤真凡

4番 中堅手 実松奏音

5番 右翼手 江渕智賀

6番 一塁手 本城友樹

7番 ニ塁手 鳥本奈織

8番 遊撃手 鳥本美織

9番 投手  春谷久美

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