第188話 連絡
「真凡ちゃん、全治3日の捻挫だって。切り傷の方は綺麗に切れているから、痕が残らないようにするって言ってた」
「……甲子園には、出られそうですか?」
「お?智賀ちゃん、思っていたより楽観的だね?まだ私達は、甲子園に出られると決まったわけじゃないよ?でも甲子園に出ることになったら、たぶん間に合うと思う」
試合の観戦中に矢城コーチから連絡があり、真凡ちゃんは医務救護スタッフさんの診断通りだということが分かった。そのことに安堵したのか、智賀ちゃんはホッとしている。捻挫だから安静にしていないといけない期間は、運動厳禁だけどね。
金澤高校と横浜高校の試合は、0対3と横浜高校がリードをして3回裏の横浜高校の攻撃を迎える。金澤高校の先発である宮崎さんには、早くも疲れが見えた。結構な頻度で投げているから、疲労が溜まっているんだろうね。
「……それにしても、不思議です。横浜高校は、何で毎年強いんでしょうか?部員数が多いだけの高校ならば、他にもありますし、金澤高校だって部員数は多いですよね?」
「あー。それは先輩から色々と技術を引き継ぐとか、設備が良いという理由もあるけど……単純に、意思の問題かなぁ?」
「意思、ですか?」
「先輩達が甲子園に行けたんだから、私達も甲子園に行けるって感じの意思。先輩達が甲子園に行けなかったら、あの先輩達でも甲子園に行けなかったんだからもっと頑張らないといけない、みたいに思うだろうし」
智賀ちゃんが毎年同じ選手が戦うわけじゃないのに特定の高校が強い理由について聞いて来たので答えるけど、強豪校は逸材が居ない時でも強い。代々受け継がれる意思のようなものが、練習量を増やし、勝ちへの執念に変わる。
「……強豪校は、純粋に練習量も多い。才能を持った人が集まって、延々と練習をした人の中から選抜出来るんだから、そりゃ強いよ」
「し~の~ちゃん?強い高校は練習量が多いって分かってるなら、朝練の寝坊回数減らそうか?」
「アイス買って来る」
「……いってらっしゃい」
そして詩野ちゃんが至極真っ当なことを言い始めたので、もう少し練習しようかと言ったら逃げられる。1年の時は強制参加に文句も言わず参加していたから目立ってなかったけど、2年になって1軍はある程度自分でメニューを組めるようになってから、練習量は少なくなっているんだよね。
「良いんですか、あれ?」
「野球の才能自体は、野球部の中だとたぶん詩野ちゃんが1番上だからなぁ。あ、久美ちゃんや智賀ちゃんも才能は凄いよ?普通の人がコップサイズだとして、久美ちゃんは鍋、智賀ちゃんはバケツ、真凡ちゃんはドラム缶ぐらいある」
久美ちゃんがそんな詩野ちゃんを放置して大丈夫か聞いて来るけど、他の強豪校の捕手と変わらないぐらいには練習しているし、あくまで自分のペースで鍛えているだけだから私からは強く言わない。
「例えがよく分かりませんが、練習や努力という水が入る器を才能としている感じです?」
「あまり大きな声で言えないけど、そういうことだね」
「……ということは、詩野さんはもっと上の器ということですか?」
「うん。真凡ちゃんより上となると、聖ちゃんがお風呂かな。で、詩野ちゃんがプール」
久美ちゃんと智賀ちゃんに、詩野ちゃんの才能はプールぐらいと言うと2人とも疑惑の顔をしているけど、捕手として同世代に敵は居ないぐらい捕手能力は高いから、天才と言っても良いんだよね。
そんな詩野ちゃんが、湘東学園を選んだ理由は「カノンがいるから」に尽きる。どこまで計算高いのか、私にも分からないし、あの性格だからこそガールズ時代はよく上の先輩や同級生と揉めたはず。ただ1つ言えるのは、詩野ちゃんがチームメイトで私は助かったということだけだ。
3回裏、横浜高校が6点を取って金澤高校の負けが濃厚になり、奏音はトイレへ行くと言い席を立つ。その直後、奏音の話を聞いていた春谷と江渕に、梅村が話しかけた。
「……途中から聞いてたけど、さっきの話、続きがあるよね」
「続き、ですか?」
「カノンの器はどれほどかってこと。智賀はどう思う?」
「え!?えっと、カノンさんの才能なら、湖ぐらいですか?それとも、海ですか?」
梅村からこういう話が振られるとは思っておらず、慌てた江渕は奏音の才能の大きさを湖や海で表現する。梅村がプールサイズであれば、奏音はそれぐらいだと江渕は考えたのだ。
「私もまぁ……湖か海かの2択ですね。詩野さんは、違う考えなんですか?」
「うん。カノンの才能の器は、普通の人と変わらないコップサイズだよ。少しぐらい他の人より大きいかもしれないけど、コップの域は出ないと思う」
「ええ?もしそうなら、今までの活躍があり得ないと思いますが……」
「ただそのコップの中に、圧縮された水が入っている。どれほど圧縮されているかは、私には分からないかな。でもまあ、琵琶湖の水ぐらいは圧縮して入ってそうだね」
一方で梅村は、コップサイズだと言う。その中に圧縮した水を入れ、コップを壊れないように補強し続けているのだと断言した。その言葉を奏音は遠くから聞いており、苦笑いしながら、とある人物と対面をする。
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