第187話 苦戦の要因
ワンナウト満塁となり、横須賀港高校は投手を交代した。疲れているのは明らかだったけど、それでも長谷川さんは他の投手と比べると頭2つ分以上は抜けている。出て来た後続の投手は、最速123キロの変則左腕。高谷さんの後に聖ちゃんもいるから、左腕を投入ってところかな。
良い試合だったし、私の反省点が多すぎる試合だったなと思っていると、高谷さんが走者一掃のライトオーバーのツーベースヒットを打つ。続く本城さんもツーランホームランを打ち、11対5。
6点差となり、聖ちゃんがセンター前ヒットで出塁したので、ワンナウトランナー1塁で私の打席だけど、向こうは勝負してくれるみたい。なので先ほどのお返しに、ライト側のポールへ当てるツーランホームランを打つ。
8点差となり、6回コールドが見えたなと思ったら、智賀ちゃんと奈織先輩と美織先輩の連打で15点目を獲得。5回コールドとなり、スコアボードの5回裏の部分には9xと表示される。
横須賀港高校と湘東学園の試合は、10点差で湘東学園のコールド勝ちになった。疲れて球威が落ちていたのは確か何だけど、あそこで代えるなら横須賀港高校には明確な負けしか無かった。最終的には、総合力に物を言わせての勝利になったとしか言えない。
「そっか。怪我をしていて、それで……」
「球数は少なくして行こうとしていたんだけど、予定よりも球数は嵩張っていてね……。そっちの1番の子、大丈夫だった?」
「ああ、うん。元気そうだから、3日もあれば治りそうだよ」
整列をして挨拶をした後、少しだけ長谷川さんと話してみたけど、一度肩を故障していたみたい。それでも今日の試合が最後になると思って、前の試合に志願登板したとか。準々決勝の試合でやれるということは証明していたけど、いつ再発するか分からなかったようで監督は肝を冷やしていたとか。
手強かったし、あのまま長谷川さんが投げ続けていれば試合はどうなったか分からない。たらればの話をしても仕方ないけど、良い投手だったことは確かだ。
試合後は矢城コーチが真凡ちゃんを病院に連れて行き、次の試合を観戦する。準決勝第2試合は、横浜高校対金澤高校で、この勝者と私達が決勝戦で戦うことになる。
ストンと久美ちゃんが隣に座って来たので、私から話しかけた。私が智賀ちゃんの隣に座りに行ったから、もう隣の席は空いておらず、聖ちゃんはちょっと迷った末に光月ちゃんの隣に座る。
「十中八九、横浜高校の勝ちだろうけど、金澤高校がどこまで横浜高校の手札を切らせてくれるかかな」
「エースの柳楽さんはここまで多くの試合で投げていますし、この試合でも先発なので、決勝では投げて来ないでしょうねぇ」
「後続の投手の内、11番と12番の情報が少ないんだよね。隠しているのが丸わかりだし、その状態でも全試合コールド勝ちで来ているから怖いよ」
「……私達も、3回戦以外はコールド勝ちですけどね。まあ、決めつけるのも酷い話ですし、金澤高校を応援しましょうか」
横浜高校は、間違いなく湘東学園を仮想敵にして練習をしているはず。明日の試合の先発をする優紀ちゃんの切り札がどこまで通用するかと、隠している投手を初見で打てるかにかかっているね。
「で、智賀ちゃんが落ち込んでいるのはシュートを打たされてアウトになったから?」
「それも、あります。ですがそれ以外にも、あると思います」
「……私が敬遠球を打ちに行ってアウトになった時、真っ先に智賀ちゃんに申し訳無い気持ちになったんだよね。敬遠球を打たずに、智賀ちゃんに回せば良かったって思ったし、それが気に障っているなら謝るよ。本当に申し訳無い」
「いえ、そんな。そのことに関してはカノンさんが打ちに行った方が確率的にも高いですし、私は気にしていません。ただ私は、真凡さんのことが心配で……」
「……中学時代からの、付き合いだよね。私も野球で怪我をして来た人は沢山見たけど、真凡ちゃんの怪我は大丈夫な部類の怪我だよ。数日安静にしていれば、きっと治る」
落ち込んでいる智賀ちゃんは、チャンスを2度潰したことも原因の1つだったけど、真凡ちゃんのことが心配らしい。智賀ちゃんは血を見るのが駄目な子だから、脚から血が出ていた真凡ちゃんの怪我は重症に見えたと思う。
智賀ちゃんと一緒に真凡ちゃんの心配をしつつ、横浜高校と金澤高校の試合を観る。横浜高校の先発は最速129キロの柳楽さんで、カットボールとドロップカーブ、縦スライダーと3球種を器用に投げ分けている。
久美ちゃんが右投げになったらあんな感じだけど、久美ちゃんより変化球のキレは上かな?一方で金澤高校の先発は、2年生の宮崎(みやざき)さん。私は知らない選手だったけど、久美ちゃんや七條さんは知っており、ガールズ時代は北九州ガールズに所属していた選手で、今大会の金澤高校をここまで躍進させた張本人だ。
先発の比較だけなら、金澤高校の宮崎さんの方が上だね。スタミナは豊富だし、ここまで全試合で完投をしている。球速も2年生で128キロだし、得意球のチェンジアップは有名らしい。
ただ、打線は大きく違う。金澤高校が今まで戦って来た相手は強打者と強打者の間の打者で休めていただろうけど、横浜高校は全員が強打者だ。試合展開にもよるけど、1回表の攻撃で金澤高校の打線は柳楽さんに三者凡退だったから、金澤高校にとっては厳しい試合になりそうだね。
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