第185話 継投

3回表、詩野ちゃんはなるべくスクリューの球数を少なくして抑えられるよう、打たせて捕るつもりのリードをしていたけど、普通にライト前ヒットを打たれて先頭バッターが出塁。そしてここで、さっき交錯があった4番の武藤さんが打席に立つ。


こちらも良く打つけど、向こうも良く打つ。ノーアウトランナー1塁で長距離ヒッターだから、守備は外野後退シフトになるけど……少し、武藤さんの様子がおかしい。


……これは、真凡ちゃんとの交錯のせいかな。肉体的にはダメージが入っていたように見えなかったけど、メンタルには影響が出たっぽい。案の定、セカンドゴロとなり、鳥本姉妹が見事な連携を見せてゲッツーになった。


この回は、僅か4球でツーアウトと効率も良い。続く5番バッターも3球でファーストゴロに打ち取り、この回は7球で終わった。クリーンアップの攻撃を、3人で断ち切れたのは良いね。


「ナイスピッチ。4回表も行ける?」

「元の予定の5回までは行けますよ?」

「いや、流石に肘に負担がかかるとか言い出した投手を5回まで投げさせるつもりは無いよ?この回に久美ちゃんの打順が回って来たら、代打を出すつもりだし」


久美ちゃんは、もう1点を取られたら交代するという条件で4回表も投げさせることになった。どの程度の負担がかかっているか、本人しか分かって無いから怖いんだよね。


3回裏に久美ちゃんの打席が回って来たら代打を出そうと考えていたけど、奈織先輩、美織先輩、詩野ちゃんの3人で終わる。3回はお互いに、無得点か。


そして4回表の先頭バッター、6番の長谷川さんに一発を浴びて久美ちゃんは交代。4対5と1点差のマウンドに登るのは、スタンバイしていた島谷さん。とりあえず、この回だけは全力で投げるよう言う。


「5回から、カノン先輩が投げるんですか。ということは、裏の私の打席で代打を?」

「そうなるね。だからこの回を、無失点で抑えることだけに集中して」

「了解です。下位打線3人を相手ですし、抑えきります」

「……横須賀港高校に、下位打線という意識はしない方が良いと思うから、全力でね?」


島谷さんは横須賀港高校の7番を三振に打ち取ると、続くバッターにはヒットを打たれるも、キャッチャーファールフライとセンターフライでスリーアウト。継投が上手い具合に進んだのは、良い事だね。


さて。この4回裏の攻撃が重要だ。9番島谷さんの代打に、光月ちゃんを出す。今、1番に居るのは負傷した真凡ちゃんに代わって高谷さん。それから本城さん、聖ちゃん、私と繋がる。


この上位打線で、1点は確保したい。私は何だかんだ言って、被本塁打率が高い。ストレートの回転数が多く、球速が速いために、芯で捉えられるとスタンドまで飛翔してしまう。


代打で出る光月ちゃんは、打撃能力なら聖ちゃんと同等だと思っている。そして聖ちゃんが持って無いパワーも兼ね備えているから、一発もある。


「そう言えば、私への代走に高谷を出したのは何で?そのまま守備に就かせるなら、勝本の方が良かったんじゃない?」

「いや、代走なら足の速い人が優先だよ。打席が回って来るのはかなり後だし、もう1点が欲しかったからね。守備面で、高谷さんと光月ちゃんに大きな差があるというわけじゃないのも大きかったかな」


足を冷やしている真凡ちゃんから質問が飛んで来たので、答えると隣にいた優紀ちゃんが「ほえ~」と声を出す。……一応、優紀ちゃんにも準備はして貰おうか。


「まだキャッチボールをするだけで良いけど、優紀ちゃんも準備はしておいて。私が公式戦で3回を投げ切ったこと、まだ無いからね」

「えっ!?もしかして、今日の試合出られる?」

「同点になったら、あり得るという程度の話だね。でも基本的には、私が投げ切る予定だよ」


4回裏の時点で1点差だし、延長戦は可能性としてあり得る。向こうの長谷川さんも疲れ始めている感じだけど、たぶん5回までは投げるから、それまで大量得点をするのは難しい。つくづく、さっきの打席で打ちに行ったことが悔やまれる。後ろの智賀ちゃんを、信じ切れて無かった証拠だ。


代打で出た光月ちゃんは右中間を破るツーベースヒットを打ち、高谷さんはバントで送る。わりと御影監督、送りバントが好きな監督でもあるから、湘東学園の犠打数はわりと多い。でも1年生を相手に、ヒットを狙いながら最低限でも進塁打となるように打て、なんて指示は出せないだろう。


ワンナウトランナー3塁となり、本城さんがセンターオーバーのツーベースヒットを打ったので湘東学園は6点目を獲得。またチャンスで聖ちゃんを迎えたけど、ライナー性の強い当たりはショートライナーとなり、ツーアウトランナー2塁。


……当然、私は敬遠された。今度は、絶対にバットへ届かない範囲への敬遠だ。こうなるとどうしようもないので、素直に敬遠される、唯一の救いは、本城さんが敬遠中の隙を突いて3盗に成功してくれたこと。


4対6のままで終わるか、更なる追加点を取れるか。ツーアウトランナー1塁3塁となって、5番の智賀ちゃんに打順が回る。

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