第171話 下位打線
川崎立花の攻撃を0点に抑えて迎えた湘東学園の2回表の攻撃は、6番の本城から始まる。ここからの下位打線が強いからこそ、湘東学園は大量得点が可能な打線になっている。しかし7番の美織と、8番の奈織にその意識は無かった。
本城がライト前へヒットを打ってノーアウトランナー1塁の場面。奈織への初球に、三村は癖球であるストレートを投げる。ランナーがいるのにも関わらず、ストライク先攻で攻めて来る三村に対し、美織は自身に落胆する。
(レギュラー陣の中で、もう私が1番打撃面で弱いのかな。成長した実感はあるけど、カノンや監督は1年生達の方を使いたかったはず。ひじりんとか、セカンドとしてお姉ちゃんより断然良いのに、チームの総合力を考慮するとか言ってサードに行って貰ってるし……)
2球目のツーシームに美織は手を出し、ファールになる。0-2と追い込まれ、焦りを感じるとともに、美織はどこか落ち着いた気持ちにもなった。
(ツーシームも普通に重いの、嫌になるね。……最後の夏、私は後悔しないように、練習して来たことを全部出し切りたい!)
追い込まれて3球目のボール球を見逃し、勝負しに来た4球目のストレート。美織は2番に居た時期に磨いていたバントの技術を駆使して、スリーバントを試みる。あまり跳ね返らずに転々と3塁線を転がる打球の処理に、意表を突かれた三村は少し手間取り、結果1塁はセーフになった。
(下手したらロースコアゲームになりそうってカノンは言ったけど、撤回させたいな。お姉ちゃん、分かってるよね?)
(分かってるよ。ロースコアゲームになるって、私達を信用していなかったから出た言葉でしょ?確かに寮には入らなかったし、練習量はその分少なかったかもしれない。だけど、私達は先輩。後輩におんぶ抱っこなのは否定しないけど、もう少し信頼されたいよね)
ノーアウトランナー1塁2塁となって、鳥本姉妹の姉、鳥本奈織が打席に立つ。初球はファールを打ち、カウントは0-1。カノンの言う通り、重い癖球はバットに当たる寸前で落ちるのか、芯で捉えられない。
しかし2球目を詰まりながらも流し、1塁線上に落とす。2塁ランナーの本城がホームへ還る、タイムリーツーベースヒットとなった。
2回表の攻撃は、本城さんがヒットを打つと美織先輩がバントヒットで続き、奈織先輩がタイムリーツーベースヒットを打って追加点を奪取した。ノーアウトランナー2塁3塁となって、久美ちゃんの外野フライ、真凡ちゃんのセカンドゴロの間に鳥本姉妹が還って来たので、2回表終了時点で4対0とリードする展開になる。
「……今日の久美ちゃんは大丈夫?飛ばしてない?」
「多少、飛ばしていると思うけどストレートのノビは良いからもう調子は弄らないようにするよ。島谷さんを、準備させた方が良いかもしれないね」
2回裏の守備につく時、詩野ちゃんに今日の久美ちゃんの出来を聞くと、初回から飛ばしているみたいで5回持つかは微妙だと言われた。川崎立花の打線は、4番の三村さん以外大したことないから飛ばさない方が良いとは思う。だけど、そう思っていたらこの回の先頭バッターの三村さんに長打を打たれた。
「私が捕る!」
「っ!分かったわ!」
左中間を転々と転がるボールを私が回り込んで捕り、2塁へストライク送球をするも判定はセーフ。三村さん、ああ見えて足も速いから全体的な身体能力が高い選手だ。バント処理も速い方だし、さっきのセーフティバントは意表を突けて無かったらアウトだった。
私以上に、チームの軸をしている感じもするね。川崎立花は5番が右打ちでランナーを進めた後、6番がスクイズを敢行して1点を返す。落ち着いてアウトカウント優先の指示を出した詩野ちゃんは間違ってないけど、1点を返されると流れが変わることもあるから、ホームアウトを狙っても良かったかもしれない。
試合はその後、お互いに1点ずつを取って5回裏を迎える。初回から飛ばした久美ちゃんの判断も、間違ってはいなかったね。初回から飛ばして無かったら、もう1点は入っていたことを考えると、全力投球していて良かったと思う。1回戦の時より、川崎立花の打線はスイングが良いように思えるから怖いよ。
5回裏のワンナウトを取ったところで、御影監督が交代の指示を出した。別に久美ちゃんが続けて投げても逆転はされないだろうけど、島谷さんを投げさせた方が安定すると踏んだのだと思う。
しかし回を跨いだ6回裏に、三村さんが今日2本目となるツーベースヒットで5対3と2点差に詰め寄ると、その三村さんもホームへ還って5対4となった。最終回に湘東学園は私の四球から1点をもぎ取ったけど、2点差か。
7回裏のマウンドには、私が登る。三村さんを相手に6点しか取れなかったのも、川崎立花の打線に4点も取られたのも予想外だった。油断しているつもりは無かったけど、どこか慢心していた部分はあったかな。
超満員の観客達の中には、ジャイアントキリングを期待し始めた観客も出始めた。最終回で2点差なら、ワンチャンスで同点、逆転があり得るからだ。しかし騒めいていた観客席は、私が投げると元の歓声に戻る。
バックスクリーンには、138キロと表示されていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます