第153話 強豪校
高校野球の強豪校は、部員数が200人を超えているところも珍しくない。だから横浜高校のレギュラー陣が、秋大会とは全然違うのも納得は出来る。高校で伸びる子伸びない子は分かれるし、ある日突然に覚醒したりする子もいる。
横浜高校との試合は、3対4で湘東学園が勝利した。完全に、譲られた勝利だと私は感じたし、御影監督や矢城コーチも同じ意見だった。傍から見れば、両校共に真剣勝負をしていたように見えると思うけどね。
まず私を敬遠しない時点で、横浜高校は勝負を捨てているのも同じだと思う。ワンナウトランナー2塁の場面でも敬遠されなかったのは、逆に新鮮な気分だったよ。
「まあ、経緯はどうあれ春季神奈川県大会優勝だね。最後の試合は、不完全燃焼だけど」
「向こうも試合中は、完全にノーサインだったんじゃない?毎回横浜高校の監督は、同じサインを出してたわよ」
「え、私は気付かなかったんだけど。真凡ちゃん、凄いね」
「私は気付いてた。むしろ向こうのノーサインにカノンが気付いていなかったことに驚きだよ」
真凡ちゃんに、横浜高校の監督が全く同じサインしか出して無かったと言われて、他に誰か気付いていた人がいるか聞いてみると、詩野ちゃんと久美ちゃんが気付いていた。私はノーサインなことには薄々気付いていたけど、ダミーサインが毎回一緒だとは思わなかった。
……まあ、あまり対戦相手校のサインを解析するのは良くないことだし、無意識的な抵抗があったりするのかな。とにかくこれで、湘東学園は春季神奈川県大会の優勝校だ。当然マークはきつくなったし、1番対策をされる高校にもなった。
神奈川県にある湘東学園以外の高校にとって、現時点で1番甲子園への障害となりそうな湘東学園は、徹底的に解析される。逆にこちらはデータが無いということも多いだろうし、序盤でアドバンテージを握るのは難しくなる。
「ま、くよくよ悩んでいても仕方ないし、夏の大会に向けて練習は怠らないようにするよ。あと、関東大会には1年生中心に出すから用意しておいてね」
「私達は、試合に出ないんですか?」
「んー、智賀ちゃんは出すか出さないかで迷ってる。夏大まで1ヵ月を切っているタイミングで、情報を露出させたくないんだけどね」
今年は記念大会で夏の甲子園に64校も出るので、夏の大会は前倒しで行われる。関東大会から夏の大会まで、僅かな期間しかないような状況だから、ある程度情報を隠すというのは大事だ。
と言っても試合に出続けた方が良さそうな真凡ちゃんや、解析されても問題の無い私や聖ちゃんは出ても良いかな。投手陣は、優紀ちゃんの回復具合次第では優紀ちゃんを1試合だけ試して、残りは島谷さんや宮守さんで回す感じ。
夏の大会は基本的に、久美ちゃんと優紀ちゃんが交互に投げるけど、2人ともスタミナはついて来たから5回は投げ切れる。湘東学園は打線が強くなったから、5回コールドなら1人で行けるし、7回までもつれるなら私が登板する。
Aシードだから序盤は島谷さんとかに投げさせても良いけど、油断して負けるのだけは避けたい。夏は1回でも負けたら、そこで終わりだ。組み合わせとかにもよるけど、島谷さんが投げる機会は少なくなるかな。
「……何を、考えてるの?」
「んー、GWの合宿の内容?3軍の子達も体力はついて来たし、色々と試していきたいね」
「まだ1年生は本格的な練習を始めて3週間しか経ってないし、過度の期待はしない方が良いよ」
「それでも、夏の大会までにはある程度は育つんだよね。それに去年の真凡ちゃんや智賀ちゃんのような子が、出て来るかもしれないし」
1年生の中で1軍に入れなかった将来有望な子は、2軍の浜川さんと高谷さん。それと個人的に注目しているのが、3軍の牛山さんになる。智賀ちゃんには劣るものの、高身長でかつ太っている。あれだけの練習量をこなして、太れるのは最早才能としか思えない。
太っているとは言っても、脂肪だらけというわけじゃないしね。……いや、あのお胸は脂肪の塊かな。身体測定を手伝ったから知ってしまっているんだけど、高校1年生で171センチ70キロはかなり厚みのある身体。
そしてスリーサイズが97-75-96だから、牛山さんは別に体型が悪い訳でも無いんだよね。ちなみに現在の私が164センチ59キロなので、8センチ差と11キロ差がある。こればかりは、どうしようもない差かな。私のスリーサイズは4月の頭で91-64-89だから、お胸の大きさでも負けている。
「そう言えば、智賀ちゃんって何センチになったの?」
「178センチです。入学当初が173センチだったので、5センチ伸びました」
「体重は?」
「え、えっと。あまり人には言わないで下さいね。……69キロです」
湘東学園の未来のスラッガーとして、牛山さんには期待をしている。GWの合宿で、2軍に上がるのかは分からないけど、1番遅くまで走っている子でもあるから応援したくなるね。
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