第142話 代表の椅子

5回表にBチームは芳田さんから東洋大相模の左腕エース石川さんに継投をした。芳田さんは4回で10奪三振と凄まじい勢いで三振を奪っていたけど、ここで交代ということは元から決まっていた継投だ。あくまでも今日の試合は代表を決めるための試合だから、勝ち負けはあまり関係無いと言われている。


その石川さんを相手にAチームの下位打線はチャンスを作るも、大槻さんの代打で出て来た森友さんが併殺で得点ならず。ここでAチームも投手を交代して、藤波さんがマウンドに登る。9番に代打で出た森友さんがそのまま入るから、篠宮先輩が交代だね。


今日の大槻さんは4回までを投げて、被安打6の失点2とあまり調子が良さそうでは無かった。噂の怪我は単なる投げ過ぎで、筋肉を傷めていたみたいだけど、怪我自体は回復しているらしい。でも、まだ本調子じゃ無いのかな。


……篠宮先輩が交代するから2番に投手である藤波さんが入ることになったけど、藤波さんは打撃能力も高いし、バントは出来るはず。そして投手能力の方は、文句の付けようが無い。選抜甲子園優勝投手であり、最速139キロのストレートとキレのあるカットボールにBチームの中軸は三者凡退だ。


先発の大槻さんと似たタイプではあるのだけど、藤波さんのストレートの方が速く感じる。6回表には明石さんと藤波さんが連打をし、内河さんが四球を選んだので、ノーアウト満塁で石川さんと対決することに。


結果は、石川さんの得意球であるスクリューを右中間に飛ばして、走者一掃のタイムリーツーベースヒット。試合は4対2と、Aチームが逆転をした。


この後は進塁打と犠牲フライでAチームはさらに1点を追加し、5対2で6回裏を迎える。ここで石川さんに代打が出されて、本城さんが打席に入った。こうして見ると、本城さんは体格で他校の4番に引けは取ってないね。


本城さんは藤波さんの速球を打ち返し、レフト前へ運ぶ。代打で結果を残したなら、アピールは出来たと思う。……勝ち負けは関係無いと言っていたけど、こういう試合で勝つための行動を出来ない人は、選ばれ無さそうかな。


結果的に藤波さんは、この回に2失点。エラー絡みの失点があったとはいえ、ヒットと四球で出たランナーが還っているので今日は調子が良くなさそう。というか藤波さんも甲子園ではかなりの球数を投げていたはずだし、投手陣の調子が出ないのは仕方ないのかな。


7回表には履陰社のエース浦田さんが登板し、Aチームの打線を零封。5対4で、Aチームの面々は最後の守備に就く。


「こうして試合でバッテリーを組むと、変な感覚だよね。持ち球はツーシームと縦スラとシュートで良かったかな?球種だけ指定するから、コースはノーサインで行くよ」

「……藤波さんの時も、そんな感じなんですか?」

「あ、分かる?藤波ってさ、時々サインとは逆の球を投げるし、コースはノーサインの時が多いんだ」

「森友さんは、よく140キロ近いストレートをノーサインで捕れますね。球種だけサインを出す件については、了解しました」


マウンド上で大阪桐正の正捕手、森友さんと軽い打ち合わせをしたけど、どこか抜けているような人という印象。演技だとは思うし、私もスピンを全力でかけるストレートは封印するからお互い様かな?


代表を選ぶための合宿である以上、アピールはしたい。でも余裕のある選手は、夏の甲子園を前に手札を見せたくない。あれだけ全力でナックルを投げていた芳田さんは、珍しい部類かな。あの人は甲子園に出られればそれで良いって感じの人だし、芳田さん以外に千葉の人がいないから全力なのかもしれないけど。


相手の打線は6番からだったので、この合宿中に把握した、相手の弱点のコースが合っているかを確かめていく。9番に入っている本城さんには回したくないなと思っていたら、8番の白木さんにヒットを打たれて本城さんに回ってしまった。


ツーアウトランナー1塁という場面だから、ホームランを浴びれば逆転サヨナラになる。私はほぼ野手で内定を貰っているようなものだし、本城さんの得意コースに投げ込むことも出来るけど、苦手なアウトローを攻めて三振。試合は5対4で、Aチームが勝利した。


「あー、もう。完敗だよ。最後のは、縦スラだよね?」

「はい。変化量を落として投げたら、引っかかるかなって」

「見事に引っかかったよ。普通なら、ボールになるって感覚だったし、してやられたなぁ……」

「でも明日の試合は、DHで出ますよね?まだまだアピール出来る機会は多いですよ」


試合終了後、案の定本城さんが落ち込んでいたので励ましておく。代表メンバーの当落ライン上にいる本城さんに、今の見逃し三振は痛かったかもしれないけど、明日の試合はDHでのスタメン起用なので、頑張れとしか私は言えない。


今日の試合の結果、代表が内定した私と藤波さん、大槻さん、赤石さん、芳田さんは明日の試合に出ない。ちなみにチーム分けに関しては、変化球が苦手そうな人をAチームに、速球が苦手そうな人をBチームにしたと岡沢監督から5人に告げられた。


明日の試合までは漏らさないでくれと言われたけど、すぐに拡散しそう。それと私は、変化球が苦手と見られていたのか。実際、速球には滅法強いから、相対的に変化球の打率は低い。友理さんの高速スライダーや、芳田さんのナックルには三振したしね。


……友理さんは、甲子園への出場経験が無いので代表候補に選ばれて無い。もしも夏の大会で甲子園に出たりすれば、入れ替えが起こる可能性もあるけど難しいかな。北神奈川は和泉大川越、東洋大相模、統光学園の三つ巴が予想されてて、南神奈川は横浜高校、湘東学園、鎌倉学院の三つ巴が予想されている。


甲子園に出るのも難しいことだし、甲子園でアピールするのはもっと難しい。友理さんの投げ方だと肘や肩が不安だし、今後も呼ばれなさそう。


そう言えば、明日は春の県大会の準々決勝の日か。鎌倉学院に、私と本城さん抜きでどこまで戦えるかは楽しみかな。

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