第141話 対決

合宿4日目。Aチーム対Bチームの試合が始まり、私はAチームの4番として試合に参加する。本城さんは、Bチームのベンチスタート。練習で良い打球は飛ばしていたから、出番はあると思いたい。



Aチーム スターティングメンバー


1番 二塁手 赤石(山梨学園・3年)

2番 捕手  篠宮(宝徳学園・3年)

3番 三塁手 内河(履陰社・3年)

4番 中堅手 実松(湘東学園・2年)

5番 右翼手 大村(大阪桐正・3年)

6番 一塁手 山村(履陰社・3年)

7番 左翼手 新居(広稜高校・3年)

8番 遊撃手 荻野(宝徳学園・2年)

9番 投手  大槻(和泉大川越・3年)



7番に入っているのは、広稜高校4番の新居(あらい)さんだ。甲子園で広稜高校が和泉大川越にノーヒットノーランを食らいそうになった試合、その最終回にツーベースヒットを打ったのが新居さんだね。


Aチームは各高校の4番級打者がずらっと並んでいるけど、Bチームも同じ感じではある。ただ、打撃面ではAチームの方が上かな。大槻さんと芳田さんの評価は、もしかすると芳田さんの方が上なのかな?


Bチームの捕手は、大槻さんの恋女房の大橋さん。彼女が1番、芳田さんのナックルに適応していたと思う。一方の篠宮先輩も、大槻さんの剛速球は涼し気な顔で捕れるから流石としか言えない。


プロのスカウトや色んな記者が集う中、代表を決まるための試合が始まった。Aチームが先攻なので、赤石さんがバッターボックスへ向かう。


「じゃ、ナックル姫を苛めて来ますか」


そんな言葉を吐いた赤石さんは、初回の第1打席から芳田さんのナックルをひたすらカットする。ナックルをカットすること自体、技量が必要な技なのだけど、難なくこなす辺りバットコントロールは天才的。2ストライクと追い込まれてから、13球もファールにするのはやり過ぎだと思うけど。


結局芳田さんは赤石さんに19球も投げさせられ、赤石さんは四球で出塁。今日の審判は国際試合に合わせて外を広くとってくれるとはいえ、あれだけ粘られたらフォアボールにもなる。そしてその後、赤石さんは3塁まで盗塁で進塁する。


芳田さんがウエストボールを投げても3塁でアウトに出来ない赤石さんの足が凄いのだけど、指導された牽制が上手く出来ない状態かな。私もその牽制球の投げ方だとボークになると言われたけど、特に芳田さんには投手コーチの人が厳しく指導していた。その影響が、確実に出ている。


続く篠宮先輩はキッチリ外野フライを打ち、Aチームは1点を先制。3番の内河さんは凡退したので、ツーアウトランナー無しという状況で芳田さんと対決だ。




(秋の地区大会で、私はカノンさんには2回打たれた。借りを返すなら、今日ここで、よね)


奏音との対決を心待ちにしていた芳田は、初球からナックルを外角に投げる。奏音はその球に芯を合わせて打とうとするが、ファールとなる。続く2球目も、ファールとなった。


カウント0-2と追い込まれた奏音は、苦笑いをする。芳田のナックルの変化量が凄く、バットを合わせるのがやっとだからだ。しかし芳田のナックルには、もう1段階上があった。


3球目、真っ向勝負を挑んだ芳田のナックルは、全く回転しない完璧な無回転だった。少し浮いたような軌道を描き、真ん中へ吸い込まれていく白球は、手元で急ブレーキがかかり、沈みながら外角へ逃げる。


ナックルが来ると想定していた奏音のバットは空を切り、ナックルが来ると分かっていた大橋のミットからも逃れる。後ろに逸らしてしまった大橋は、すぐにボールを1塁へ送球したために振り逃げにはならなかった。しかし奏音が三振したということに、周囲の人間は驚く。


後ろから芳田の投球を見ていたスカウト達は、感嘆の声を上げる。芳田の投げたナックルは縫い目がはっきりと見える、程度の代物では無かったからだ。縫い目が微動だにしないような、完璧な無回転。それを高校3年生が投げたことに、一同は絶句した。


「今のは仕方ないな。審判の足に当たらなかったら、振り逃げは出来たんとちゃうか?」

「いや、当たるとは思っていたので足がすぐに動かなかったですよ。……あのナックルは、ヤバいです。真ん中から、ベースの外側へワンバウンドしましたよ」

「そうか。……赤石の時にあのナックルは投げて無いっぽいから、たまたまかもしれん。けど、私も警戒しておくわ」


奏音は後続の大村に、芳田のナックルについての情報を話しながらベンチへ戻る。初回で1対0と先制したものの、点差は僅かに1点。そして試合の流れは、徐々にBチームへ傾き始めた。




4回表、ツーアウトランナー無しという場面で私の打席を迎えたけど、結果はライト前ヒット。ライト前へ流すのが、精一杯のナックルだった。


2回以降、芳田さんはパーフェクトピッチングを続けており、私のヒットでようやくAチームは2安打目となる。しかし後続の大村さんが三振してしまったので、この回も0点。試合は1対2で、後半戦に移る。

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