第137話 夜練
和泉大川越が負けたことに触れた久美ちゃんは、続いて東洋大相模が負けたことにも触れた。あの友理さんが先発し、東洋大相模打線を完封。例の高速スライダーは、キレと変化量が増したみたいだし、いよいよ手が付けられなくなっている。
「平塚高校が和泉大川越に勝って、統光学園が東洋大相模に勝ったので、選抜出場組で生き残っているのはもう私達だけですよ」
「統光学園は昨年の夏大準優勝校だし、純粋な総合力も高いからね。ユーリさん、秋の頃より身体が大きくなっている感じだし、準決勝まで勝ち上がって来そう」
春季神奈川県大会は、初戦の3回戦で選抜に出場していた3校の内2校が消えた。大槻さん不在の和泉大川越は正直怖くないし、東洋大相模は相手が悪かったとしか言い様が無いけど、仮にも選抜ベスト4とベスト8が初戦負けしたという状況だから掲示板とかでは「神奈川、やっぱり魔境」なんて言われてる。
それ以上に、大阪の方が盛り上がってるけどね。選抜甲子園の決勝戦が史上初の大阪校同士の対決になって、夏は大阪を北と南に分ける予定が、急遽東と西で分けることになった。大坂桐正と履陰社が両方夏の甲子園に出られるよう、細工も施している。
昼休みの後は眠くなるような授業が2時間あり、授業が終わったらその瞬間、放課後の練習時間がスタートする。今日からグラウンドには1軍の面子しかいないので、広々と練習することは出来るけど、その分1年生達の粗も目立つ。
「ゴロを待っていたら、1軍に残しませんよ」
練習中、どんどん厳しくなる矢城コーチのノックに、捕球のおぼつかない子が出て来る。と言っても、内野組で守備が壊滅的に不味いのは井原さんぐらいかな?聖ちゃんはライナーにも対応出来ているし、守備で1軍に抜擢された熊川さんは何とか食らいついている模様。
外野組は上田さんと下田さんも守備は上手いから、守備面の不安は少ない。ということで、外野組は早速御影監督の打つアメリカンノックを50本こなす。昨年、真凡ちゃんと智賀ちゃんがこれでよく死んでいた思い出があるけど、今年死んだのは上田さんと中谷さんだけか。
「2年は追加で30本や。走れ。
元気そうな勝本と下田もや」
ばったりと倒れて休んでいる上田さんと中谷さんを尻目に、智賀ちゃんと真凡ちゃんはわりと余裕を持って練習をこなしていく。毎日ぶっ倒れながら練習を続けていたし、心肺機能も高くなっているから、この2人が付いて行けることは分かるけど、光月ちゃんと下田さんも付いて来られるのは凄いな。
……そろそろ、1軍の1年生でも実力差がはっきり現れて来ている。井原さんと上田さんは、1軍に入るには実力が伴っていない。しかしそれでもあのテストを合格したのだから、運は持っている。練習には真面目に取り組んでいるし、合宿までは様子を見よう。
「坂上さん、ちょっとブルペンで捕ってくれる?」
「はい。了解です」
詩野ちゃんの後釜候補筆頭の坂上さんは、私の速い球をしっかり捕球出来ているからキャッチング能力は高い。リード面はまだはっきり分からないけど、シート打撃でもそれなりに考えてリードをしている。打撃面は、これからの努力次第かな。
「ナイスボールです。今日は縦スラ、何球投げますか?」
「10球だけ投げるよ。4回戦では、私も投げる予定だし」
「分かりました。……今日はワンバウンドでも、止めてみせます」
壁としての能力は1年生の中で1番だと思うけど、それでもまだ私の縦スラや久美ちゃんのドロップカーブは捕球し損ねることがある。落差のある変化球が、ワンバウンドした時に捕り損ねやすい感じかな。後ろには逸らさないという気概は感じるし、捕球出来るようになるのも時間の問題だと思うけどね。
「どんな球でも絶対に捕球出来る詩野ちゃんがおかしいだけだから、詩野ちゃんの真似はしなくて良いと思うよ?」
「……野球星人筆頭が何か言ってる。あと坂上は、無理に捕りに行かずに身体で止める方が良いと思うよ」
基本的にワンバウンドの球は、ミットだけで捕りに行かず身体全体で止める坂上さんの方が正しい。ワンバウンドの変化球でも軽々しく捕球している詩野ちゃんがおかしいから、真似したくなる気持ちは分かるけど、真似はしない方が良さそう。
投手組は投手組で投げ込んだり走り込んだ後、山盛りの晩ご飯を食べて風呂に入る。風呂は寮のお風呂で、新築なだけあって綺麗で広い。学年毎に区切ってお風呂には入っているから、上級生は浴槽を広々と使えている。
「智賀ちゃん!起きて!起きて!」
「寝てません……寝てません……」
「それ寝てるから!目瞑っちゃってるから!」
お風呂で眠るのは気持ち良いけどやっちゃいけないことなので、浴槽で寝ようとしている智賀ちゃんは叩き起こす。智賀ちゃんは元々あるシャワー室でも寝てしまうような子だから心配していたけど、湯船で寝たら死ぬ可能性もあるから、お風呂で寝る癖は矯正しようか。
風呂から上がった後は、夜練の時間。勉強が大丈夫じゃない人は勉強時間だけど、勉強の方が大丈夫なら1回でも多くバットを振る。そろそろ最初の脱落者が出てもおかしくない時期だと思っているけど、今のところ、1年生野球部員47人の数に変わりはない。
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