第135話 2軍と3軍

春季神奈川県大会の3回戦を無事に勝利し、ミーティングと反省会が終わると、グラウンドでは2軍選抜のテストでAチーム対Bチームの試合が行われていた。


「え?高谷が投げてるの?」

「ん?高谷って、真凡ちゃんと同室の外野希望だよね?外野手が投げてるってことは、ピッチャーがいなかったのかな」

「1年生のピッチャーは9人いたはずだから……あそこにはまだ7人も投手がいるのに、どんな運よ」

「んー……最初の体力テストで、投手が5人まで減ったみたいだね。それが、BチームとCチームに2人ずつ行ったから、Aチームは投手が1人になったのかな?」


今回の2軍を決めるテストに関しては、萩原監督と2人で話し合って決めている。体力テストである程度振り分けた後は、運と実力がはっきりと出る試合形式でのテストだ。


持久走での体力テストは投手有利だと思ったから、7人中6人は残ると思っていたけど、予想が当たらない。投手が5人しか残ってなかったから、チームの投手力に差が出ている。


……捕手は3人しかいないし、1軍に1人は上げる以上、試合形式で捕手の評価はしたかった。マウンドにいる高谷さんは肩が強いようで、野手投げなのにある程度抑えられている。


結果的に高谷さんのいるAチームは負けてしまったけど、浜川さんがBチームにいたから仕方ないか。浜川さんはスライダーとフォークを持っていて、1年生の今の時期に120キロを投げているから投手としての総合力は高い方。島谷さんという、1年生投手としてトップクラスの人材がいるから霞んで見えるだけだね。


続くBチーム対Cチームも浜川さんが3回まで投げているので、スタミナはある方だと思う。結果的にBチームが2勝したので1位になり、投手テストの時に対戦した浜川さんや尾崎さんは2軍が確定した。


「わりと残酷なテストよね。個人では無くて、団体で評価されるのは納得出来ない人もいるんじゃない?」

「個人技で評価するよりも、試合の勝ち負けで決める方が3軍行きになった時に納得し辛いだろうから、試合形式にしたんだよ?」

「……え?理不尽なテストに、わざとしたってこと?」

「理不尽なテストじゃないと、3軍のモチベーションが上がらないからね。実力不足を突きつけられてるよりかは、テストの内容のせいにし易い試合形式の方が良いと思ったんだよ」


真凡ちゃんと試合を眺めながら、今回の2軍選抜のテストの意図を語る。実力不足をはっきりと突き付けられて3軍に行くよりかは、言い訳を用意した方がまだ不貞腐れる可能性は低い。だからこそ練習について行けるだけの体力があるかないかを測定した後は、団体戦で評価することにした。


AチームとCチームの試合は、お互いに点の取り合いが続く。Aチームは温存していた投手が投げているけど、Cチームはさっきの投手よりかは球速が遅くてコントロールの悪い投手だ。結果的には、4番に据えられた高谷さんの活躍によってAチームが勝利し、Cチームの面々が3軍となる。


たぶん、高谷さんがAチームのリーダー的なポジションになって即興のチームでも纏まりのあるチームになっていたのだと思う。リーダーシップを持つ人がいるかいないかの差で、勝負が分かれた感じだね。


これで、2軍の面子と3軍の面子は確定した。3軍になった1年生の中には、納得がいかないと思っている人も多いはず。推薦組を除くと、1軍としてベンチ入りした1年生と、3軍の1年生に、それほど大きな差は無い。だからこそ、3軍になった人達には期待をしている。


「2軍選抜テスト、ご苦労様でした。2軍枠の人達は、来週から早速練習試合が始まるから心構えだけしておいてね。そして3軍になった人達は、とにかく基礎力を向上させるための練習スケジュールを組むから、覚悟しておいてください。すぐに入れ替えの機会も設けるつもりだし、まだまだ高校野球は始まったばかりだから、真面目に練習を取り組んでね」


テストが終わると、萩原監督が声をかける。3軍の人達は、私達が去年やっていた体力作りのトレーニングを中心に行ない、食事の内容まで事細かく決める予定だ。


1年生マネージャー達は、この3軍を中心に配置する予定。一方で2軍は強制される練習が3軍より少なくなり、1軍はもっと減る。これでしばらくの間は回す予定だ。


「……1年生に、いきなり自分でトレーニングの内容まで決めさせるの?」

「そういうことになるけど、1軍に入って来た積極的な子達は、先輩に聞きに来るでしょ。自堕落には過ごさないと思うけど、まずは様子見だね。上級生が朝から晩まで身体を動かしているのに、練習しないような子なら2軍に落ちてもしゃーなしだし」


ビデオを使ったバッテリー間での反省会も終わったのか、詩野ちゃんもグラウンドに来たので、今後の方針を伝えておくと怪訝な顔をした。個人的に、強制するような練習は減らしていきたいとも思っている。


自身の弱点を自分で分析して、それを克服していく。私達が1年生の時は私が全員分の練習内容を決めて、面倒を見ていたけど、この人数だと流石に手が回らない。だから上に行くほど、放任主義にもなる予定。


まずは2軍も3軍も、バットを振るための体力作りからだけどね。投手の方は、走り込みかな。今日から3年間、彼女達には数え切れないぐらいにバットを振って欲しいし、陸上部以上に走って欲しい。

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