第133話 新学年
始業式の日。野球部は体育館の壇上に立たされて一列に並び、全校生徒から選抜甲子園ベスト4を祝われた。隣にいる智賀ちゃんが、顔を真っ赤にしていたのが印象的だったし、学園長である伯母が終始ニコニコしていて怖かった。
さて。クラス替えの結果、2年生の野球部員は全員2年1組に固めて配置された。これは秋の大会の日程上、修学旅行に行けなかった場合、同じ班で固めておけば欠員の出る班がなくなるという理由がある。3年生達も固めて配置している辺り、温情のような気もするけどね。
「春季大会は、3回戦から面白い対戦カードが幾つかありますね」
「そうだね。秋季大会で春のシード権を取れなかったから、統光学園が3回戦で東洋大相模と対戦か。あとシード漏れ常連校の平塚高校が、3回戦で和泉大川越と当たるよ」
出席番号順で席順が決まっているけど、丁度クラスの真ん中で久美ちゃん、優紀ちゃん、私、智賀ちゃんと横一列に並んでいるのは作為的なものを感じる。マネージャー組の相馬さんや水澤さん、七條さんとも同じクラスなので連絡は取りやすいね。
春季大会は2位以上に入れば春期関東地区大会への出場が決定するけど、湘東学園は選抜甲子園でベスト4に入っているので途中で負けても関東大会へは行ける。だからまあ、本当に春季神奈川県大会は1年生を積極的に使っていきたいんだよね。
「平塚高校って、去年の夏に2回戦で当たったところだよね?」
「うん。私がホームランボール捕って、1対0で勝ったところ。あの後の平塚高校は、秋季神奈川県大会で3回戦に東洋大相模と戦って負けて、春季大会でも和泉大川越に当たる不運っぷり」
「そもそも去年の春の大会で平塚高校は和泉大川越に3対2で負けてますから、リベンジに燃えているでしょうね」
久美ちゃんとトーナメント表を広げながら話していると、優紀ちゃんが加わって来た。平塚高校は、本当に不運な高校だと思う。ここ5年ぐらい、トーナメントの序盤に優勝候補と戦って敗退を繰り返しているせいで、掲示板ではシード漏れ常連校なんて呼ばれている。
「というか平塚高校は去年の夏に戦った時、エースも4番も2年生だったし、下手したら和泉大川越が負けるかもよ」
「和泉大川越は、無理に勝たなくても良いですからね。選抜での疲れもあるでしょうし、控え中心で戦うなら負ける可能性はあります」
トーナメント表を見ていると、私達の3回戦と4回戦の相手はそこまで強く無さそうだ。私と本城さんが抜ける準々決勝で当たりそうなのは、秋季県大会の4回戦で戦った向中高校か、3位決定戦で戦った鎌倉学院かな。
両方とも、春季地区予選でキッチリ1位通過だし、どちらもエースが厄介だから私と本城さんが居ない打線で打ち勝つのは難しいかも。
始業式が終わったら、昼ご飯を食べて部室へ向かう。学校、部室棟、グラウンド、寮と1直線にあるから、昼ご飯を食べに寮へ戻るのは少し面倒かもね。
3回戦で気になる対戦カードは、東洋大相模と統光学園の試合かな。東洋大相模は選抜ベスト8だったので、無条件で関東大会には出られない。きちんと今大会で、準優勝以上になる必要がある。
春の大会はシード権を獲得出来ればそれで良いという高校も多いけど、それでも出来れば上位に入ってAシードが欲しい高校は多いはず。
昼休み後、野球部員が全員集まったところで、新しく野球部に2軍監督兼コーチとして雇われた萩原(はぎわら)沙絵(さえ)さんがご挨拶。湘東学園野球部のOGで、大学でも野球を続けていた人のようだ。
「萩原沙絵です。歳は今年で、27歳ですからあまり皆さんと年齢は変わらないと思います。2軍監督として、皆さんの成長を手助けしたいと思いますので、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる萩原さんは、優しそうで従順そうな人だ。湘東学園があまり強くないというか、弱小校時代のエースだったらしく、一応現役時代は120キロが出ていたらしい。大学でも野球は続けていたみたいだけど、調べてみるとそこまでレベルは高くない大学だった。
まあ、OGだから呼びやすかったのかな。早速野球部員56人から、1軍メンバー19人を除く37人の中で2軍メンバー20人を決めて行くそうだけど、その選抜は明日明後日に行なうみたい。2軍からも漏れた人には、基礎練習を中心に別メニューを組んでいる。
これからは、1軍枠20人と2軍枠20人に分けるということを話しておいた。2軍は2軍で練習試合のスケジュールを組んでいるので、春の大会で負けたところから順番に申し込んでいる最中。選抜での宣伝効果は大きいから、2軍でも練習試合の相手は不足しなさそう。
「会計課の村越(むらこし)千鶴(ちづる)です。主に野球部の予算管理をしているため、消耗品が無くなった場合は報告しに来て下さいね。会計課の場所は、職員室の右奥にあります」
ついでに、会計課の村越さんもわざわざ来て自己紹介をしてくれた。去年から私とは関わり合いのある人だけど、伯母の被害者筆頭でもある。木製バットや練習球などの消耗品を実際に買うのも、コーチや寮の管理人を実際に雇うのも彼女だから役割は大きい。
今日から、本格的に野球部は始動していくことになる。とりあえず明日の3回戦で戦う日大茅ヶ崎は、この前の練習試合でも大勝したし、1年生を使いながら勝ちに行きたい。
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