第118話 甲子園練習
開会式の4日前、30分だけ私達は甲子園のグラウンドで練習をすることが出来る。いわゆる甲子園練習という奴で、甲子園の土の感触に慣れるために行なうのだけど、30分は短い。
普段よりもキリキリと動いて、矢城コーチのノックを受ける。グラウンドが広いこともそうだけど、観客席も広いから試合が始まったら熱気が凄いと思う。みんな緊張はしているけど、ここでプレーできることへの期待が大きいからか、動きは良い。
マウンドでは優紀ちゃんと久美ちゃんがそれぞれ10球ずつぐらい投げて、甲子園のマウンドの感触を確かめていた。私まで投球練習する時間は無かったので、本当に30分は短いと思う。
甲子園での練習は軽く汗を流すだけの練習になったけど、試合前に甲子園での動きの確認を出来たのは良かったかな。練習後はホテルに戻って、観光の予定でも立てる。各チームに練習時間と練習会場は割り当てられているけど、普段の練習よりかは軽くなるから、体力はみんな有り余っている状態だ。
「抽選会の日から、1人1泊8000円のお金は出ているんだよね。だからわりと、お金には余裕あるよ」
「え?それって、矢城コーチが管理してるんじゃないの?」
「いや、財布は任されたから好きなとこに行けるよ。せっかくだから、梅田の街でも歩いてみる?美味しい店とか、話題の店に今なら行けるよ?」
抽選会の日からベンチ入りの人数×日数×8000円を支給されるので、宿泊費を差し引くとお金は余る。ちなみに引率の顧問は、1日に1万円の支給となる。宿泊費が安いのはホテル側の善意のお陰なので、浮いたお金を自由に使うことに抵抗感はあるけど……。
でも関東出身者なら梅田へ行ったことは無いだろうし、観光がてら、ぶらりと食べ歩くことにする。私だって、時には遊びたくなる。
「あ、私も行きたい!詩野ちゃんも行くよね?」
「私は疲れたから寝る」
「あー、ついて来る人は何人になりそうかな?智賀ちゃんは来るよね?」
「はい!」
私達が宿泊するホテルは新大阪に近いので、梅田からは近い。というか、列車で一駅分だ。いざ出かけようとしたところで、ばったりと和泉大川越のエース、大槻さんと鉢合わせする。隣にいるのは、キャッチャーの大橋さんかな。2人の私服姿を見るのは初めてだ。
……神奈川県から甲子園に出る高校は、3校ともこのホテルに泊まっているんだよね。だから東洋大相模のメンバーもここに宿泊しているし、何なら食事の時間で鉢合わせをすることもある。
「今から散策か?」
「そうですよ。あまり梅田へ行ったことは無かったですし、美味しいものでも食べに行こうかなって」
「……ロビーの方、記者が数人いるから取り囲まれるぞ」
「私は大丈夫だから、問題無いですね。律儀に対応していると、試合前から疲れちゃいますよ?」
大槻さんに話しかけられたので答えていると、大槻さんは記者達に囲まれたのか疲れているような雰囲気だった。場合によっては同じ質問を5回繰り返して答えるような事態に陥るので、自由時間中に律儀に答える必要は無い。
試合後のインタビューとかは流石に答えるけど、あれも本来であればすぐにストレッチやクールダウンを行ないたいので、答えは簡潔に済ませた方が楽だ。そしてそういう時は、回答者が答えを簡潔に言えるよう配慮してくれる記者を優先すれば良い。
「ん。忠告は感謝するけど、日に日に記者は増えて行きそうなのがなぁ」
「うちも東洋大相模も1回戦の相手が相手ですから残るでしょうし、記者は増えるでしょうね。大槻さんは、初戦の志學館戦に投げるんですか?」
「当然投げるし、抑えるよ。目指すは優勝だし、当たったらよろしく?」
「当たるとすれば、決勝ですね。……決勝戦で、同県対決といきましょうか」
もしも私達が対戦するとすれば、それは決勝の舞台だ。その前に和泉大川越は大阪桐正と当たるからどうなるか分からないし、私達のブロックにも宝徳学園や履陰社、日大産などの強豪校がひしめき合っている。
……順調に行けば、準々決勝では大阪桐正対城西高校の試合も見ることが出来るんだよね。その勝者が、和泉大川越との準決勝という形になるかな。
一方で私達は準々決勝まで勝ち進んだ場合、準々決勝で対戦相手となりそうな4校に飛び抜けて強そうなチームは居ない。そして準決勝の相手は、東洋大相模か履陰社か日大産か。ダークホースも眠っているだろうし、ワクワクするね。
大槻さんと別れた後は、優紀ちゃんと智賀ちゃん、真凡ちゃんと久美ちゃんの5人で梅田へ行く。梅田周辺は目当ての店を探すのが難しいと言われるけど、京都出身の久美ちゃんが梅田の土地勘をそこそこ持っていたからスムーズに探索をすることが出来た。
「……ダンジョンって言葉が、過剰では無いわね。久美が迷わずに歩けるの、凄いと思うわよ」
「私としては、カノンさんが梅田の土地勘無いというのも不思議ですよ。何回か来てるはずですし、関西人ならある程度分かるでしょう?」
「無理。それなりに記憶力は良いと思っているけど、梅田は数回来ただけじゃ憶えられないって」
まだ何回か梅田へは来れそうだし、今度は詩野ちゃんや先輩達も誘って散策したいな。
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