第114話 流行
掲示板に書き込んでいた人物は七條さんと特定したところで、隣のクラスに行って詩野ちゃんに相談する。
「ほへー。七條さんって、カノンの前の席だった子だよね?」
「うん。うちのクラス、1学期の間は席替えが無かったからずっと名簿順だったんだよね。2学期になって席替えしても、斜め前の席だし、話はよく聞こえてたと思う」
特定したよー、という話に、1番感心をしてくれたのは優紀ちゃんという。話を聞き終えた詩野ちゃんは、気怠げに口を開いた。
「……何で、同じ教室に居た優紀ちゃんが把握してないの?」
「え?だってカノンと話してたし七條さんは位置的に私の背中側だったし……というより、カノンは人との話の最中に掲示板を見てたの?」
「ずっと優紀ちゃんの方を見ていたよ?視界の端にスマホを映して、画面のスクロールはさせてたけど。優紀ちゃんだって、気付いては無かったでしょ?」
「うん、気付かなかった」
人との会話中にスマホを見るのは良くないことだと言われるけど、ちゃんと人の話は聞いているし、会話の内容も憶えられるのであまり困ることは無い。相手側に与える不信感は知っているから、話す時はちゃんと視線を合わせて、スマホはお胸の上ぐらいに置いて片手で操作している。あまり、指摘されたことは無いかな。
「今のところ、食事量が凄いということと、カノンさんがモンスターグランドファンタジーをよくしているという情報以外は流出していませんね」
「……Monster grand fantasy?何か最近、よくCMが流れてるアレ?」
「うん。わりとうちのクラスは3人とも、そのゲームには嵌ってるよ?だからまあ、そのゲームの攻略をし合ったりマルチボスを協力して倒したり?」
久美ちゃんが掲示板を確認したせいで、私がよく遊んでいるソシャゲがバレた。可愛い女の子が沢山出るゲームということで、詩野ちゃんからは冷ややかな視線を頂く。詩野ちゃんは、わりとソシャゲとか嫌いそうだしね。
「へえ。今度、私もインストールしてみようかな?」
「たぶん大流行りするから、インストールして損はないとは思うよ?先週にリリースされたばかりのソシャゲだし、初心者でも親しみ易いシステムだと思う」
優紀ちゃんが興味を持ったので、SNSの個人チャットで招待コードを送っておく。来年の今頃には覇権の一角を握っているゲームで、アニメ化もされるので早々にサービス終了はしないと思う。私がこのゲームを始めたの、前世だと4周年記念イベントからだしね。
「とりあえず、直接注意するのは止めた方が良いと思うよ。本人は気付かれて無いって思い込んでいるそうだし、ショックが大きそう」
「詩野ちゃんも、直接言うのは止めた方が良いとは考えるよね。……これから、七條さんの近くでは野球関係の話を控えるしかないか」
「というより、これからはカノン以外の席で集まれば?真凡ちゃんの席とか、入り口に近いじゃん」
「んー、そうしようか?」
一応、対抗策としては優紀ちゃんが提案した案を採用する。これから私達のクラスの3人が集まる時は、真凡ちゃんの席へと移動することになった。位置的に正反対だし、七條さんが幾ら地獄耳でも教室の反対側の会話までは聞こえないはず。
すぐに実行するのもアレだし、自然と離れる感じにしていこうか。あまりに酷かったら、間接的に注意すると思うけど、その時は久美ちゃんが任せて下さいと言ったので、任せることになるとは思う。
……内通者と名乗っちゃう辺り、子供っぽいところはあるし、何か個人的な恨みとかあるのかな?1学期の最初の頃、野球部への勧誘はしたけど、断られた記憶があるからよく分からない。2学期にも、マネージャーを追加募集をした時に声をかけたっけ。その時も、断られたけど。
再度掲示板へ目を落とすと七條さんが掲示板で私に、七條さんがファンの球団へ入って欲しい、みたいなことを書いている。七條さんの推しの球団は、横浜ベイスタアズらしい。最近、外国人監督になって躍進しているところだ。今年度は3位だったけど、来年は優勝もあり得そう。
プロ野球の話を振れるなら、個人的にも積極的に話しかけていきたいところだね。あまり今シーズンの野球は見ていないけど、私もプロ野球の動向は把握しているから……京神ジャガーズファンって、ベイスタアズファンから見てどう思われるのかな?
「詩野ちゃんは、ベイスタアズファンだったよね?」
「うん。産まれてからずっと、ベイスタアズファン」
「……私が京神ジャガーズファンだと知った時、どう思った?」
「えっ。今知ったんだけど。あー、出身が神戸なら、そうだよねって感じ。
……七條さんの前で、京神ジャガーズファンってことは言ったら駄目だよ。ドラフト前にそういうことが広がるのは、良くないし」
「あっ」
そして、プロ野球の話をするなら掲示板に書き込ませるのを止めてからじゃないといけないことに気付く。結局、直接言うなら早い方が良いのかな。
「カノンさんがそこまで悩むようでしたら、私が何とかします」
「久美ちゃんは、どうするつもりなの?」
「間接的に、手紙で言っておきますよ」
選抜甲子園まで、あと2ヵ月という時期だから大事にはしたくないんだよね。とりあえず久美ちゃんに任せたけど、波風が立たなければ良いな。
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