第111話 クリスマス

冬合宿4日目。今日はクリスマスだけど、練習に休みは無い。今日の私は5時45分に起床する予定だったけど、早めに目が覚めたので5時15分起床組に交ざってランニング。今日から本格的に寮建設のお手伝いを開始するので、8時になったら智賀ちゃんと本城さん、鳥本姉妹を引き連れ、職人さん達と交ざる。


「よろしくお願いします!」

「こちらこそよろしく。片付け作業や資材の運搬をする作業員は何人いても足りないから、バイトしてくれるのは非常に助かるわ」


高校生は何かと制限があるようだけど、それでもそこそこの重さの物を持たせることは出来るそうで、私達は昼まで馬車馬のように働く。ひたすら指示通りに運んでいるだけだけど、お金が発生する以上、手を抜いたりする子はいない。


将来的に住む寮の建築に関われるのだし、建物が組み上がっていくところを見るのは結構楽しいな。昼からは、残りの5人が4時間程度お手伝い。


一応、時給は920円と結構出ている気はする。お手伝い1日につき、ざっくり計算で920円×4時間×10人の36800円か。予定では10日働くことになっているから、結構な部費が稼げそう。


「それなりにお金を、みんなに還元出来そうで良かったよ」

「……4時間肉体労働して、練習もするのは普通にハードだけどね。

今日は、夕食前にクールダウン?」

「うん。クリスマスパーティーぐらいは、開きたいしね。今頃、相馬さんと水澤さんはケンターキーから大量のフライドチキンを持ち帰ってるはず」


詩野ちゃん組もバイトが終わったようなので、今日は早めに練習を切り上げる。冬合宿は練習漬けと言っても、時節のイベントは盛り上がりたいのでクリスマスは祝う。お寿司も届いたので、配膳の準備を手伝おう。


「……お寿司とフライドチキンって、凄い組み合わせじゃない?」

「後でオードブルも届くよ。クリスマスパーティーとは言っても、美味しい物を食べる口実だしね」


詩野ちゃんが突っ込みを入れて来たけど、短期間でパーティーの食事を用意しようと思ったら中々に難しいものだ。まあ、お寿司が嫌いな子は部内にいないし、焼肉に行った時に肉嫌いの子がいないことは確認済みだ。


「寿司が、山盛り!」

「こういう食事も、たまには良いわよね。ジュースは、適当に置いてくわよ」

「……肉だ」

「……全員来るまで死んどくね」


優紀ちゃんは好物という大量の寿司に目を奪われ、真凡ちゃんはお願いしていたジュースを買って来てくれた。午前にバイトをして、午後の練習が1番ハードだった鳥本姉妹からは早く食べさせてという視線の圧が凄い。


「よし。余興も何も無いけど、今日は食べてはしゃごう。

メリークリスマス!乾杯!」

「乾杯!」


スポーツ選手は食生活が大事とか言われるし、フライドチキンとか敬遠する人もいるけど、腹いっぱい揚げ物を食べるだけで身体に悪影響が出るなら今頃数億の人が死んでると思う。


全ての用意と全員が集まったところで、一応幹事として乾杯の号令だけしておく。クリスマスパーティーで堅苦しい挨拶とか、目の前にご馳走を置かれた飢えた獣達の耳には入らないし適当で良いんだよ。


「来年はクリスマスパーティーを開くのが難しくなるかもしれないし、これだけ食べられるのは今年だけかもよ」

「ふぇ?……んく、ん、何で?」

「1年生が想像以上に集まりそうだから、だよ。とりあえず、お寿司は無理かな」

「なるほどね。そう言えば、もうそろそろ高校入試が始まる頃なのよね」


もしゃもしゃとチキンを食べる真凡ちゃんに話しかけると、もう来月には高校入試が始まることに気付く。結局、後輩達が何人になるか、個人的にはかなり気になっているかな。


ちょうど湘東学園の試験日辺りに選抜甲子園への出場決定通知が来そうなので、受験生が来る日に「選抜甲子園 出場決定!」の垂れ幕が飾られるかもしれない。……確実に宣伝効果はあっただろうし、今年の倍率自体も高くなりそう。


バイト後&練習後ということもあり、かなりの量の食事を用意していたのにも関わらず完食される料理達。真凡ちゃんが大量に買っていた炭酸系のジュースも尽きたため、結局いつものスポーツドリンクを標準より薄めた飲み物が用意される。


「ご馳走さまでした。……私も結構、食べるようになったでしょ?」

「うん。たぶん真凡ちゃんが、この1年間で1番苦しんだのは食事だよね。他の練習は楽しそうに消化するし、結構食べられる人が多いから目立ってたかも」

「……智賀が、羨ましく思えたもの。あの子、どんな胃袋をしてるのよ」

「今日も智賀ちゃんの食べっぷりは凄かったしね。綺麗な食べ方だから気にはならなかったけど、ひたすら箸が動いていたよ」


今日は沢山食べれたという真凡ちゃんは、好物だから多くの量を食べ切れたのかな?……多く食べられないアスリートは、栄養補給が食事から取れないことを意味する。その壁を真凡ちゃんが克服して来た姿はずっと見ていたし、よく頑張った。


まあ、食事は本当に個人差が出る。智賀ちゃんとか、むしろこんなに食べて良いんですかと聞いてくるタイプの人間だったからね。わりと今まで、食欲は抑えていたらしい。運動するなら、沢山食べられると知ってより練習量を増やすような子だし、本当に食べることが好きなんだなぁと思った。

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