TS転生したから野球で無双する

第79話 左腕

初球、まだ打てないだろうストレートが来ると予想したから、私はタイミングだけを合わせて全力で振った。ファールになったのはたまたまだし、やっぱり凄いストレートだと思う。

そして2球目、高速スライダーだけに的を絞って踏み込んで打った。読み通り2球目は高速スライダーだったので、ジャストミートする。打球は左中間へ飛んで落ちたので、ツーベースヒットになった。

2点を返して、3対3の同点だ。そしてまだワンナウトランナー2塁というチャンスで、本城さんが打席に入る。

ここはもう一本打って欲しい。その願いも届かず、湘東学園の4番5番は連続で外野フライに打ち取られた。特に智賀ちゃんは、かなり良い当たりだったのだけどセンターフライだ。高速スライダーでもボールに力があるから、思っていたよりも飛ばなかったみたい。

……私も投げて来るのが高速スライダーだと分かっていて、ホームランにはならなかったし、まだまだだ。

試合は同点のまま、4回の攻防は互いに0点で終わる。そして5回表のマウンドには、久美ちゃんが登った。統光学園の打順は、9番の池田(いけだ)さんから。

この人も1年生で、ショートを守っている。2年生で同じショートの美織先輩より、動きは良い。打撃の方は、まだ何とも言えないけど。

池田さんに対して4球目、追い込んでから久美ちゃんはドロップカーブを投げる。縦に大きく落ちる久美ちゃんのドロップカーブは、決め球として最高だと思う。ただ、決め球として読まれやすい。

初見の筈のドロップカーブを池田さんは上手くライト前へ運んで、ノーアウトランナー1塁。ああいうバッターが9番の時点で、統光学園が如何に強いかと言うことと、どれだけ練習をして来たのかということが分かる。

続く1番にも長打を浴び、アウトを1つも取れないままノーアウトランナー2塁3塁というこの試合最大のピンチを迎える。ここで統光学園のバッターは、ライトを守る2番2年生の荒井(あらい)さん。

前の回は送りバントを決めていたし、今は同点。スクイズを仕掛けて来る可能性もあるので、内野陣はマウンドに集まって色々と確認していた。その後、内野外野全員に詩野ちゃんは中間守備というサインを出す。腹を括ったみたいで、バッター勝負かな。

初球はカットボールから入ったみたいで、ライト方向のファールになる。仕掛けて来るなら次かな、と思ったら、本当に2球目で統光学園はスクイズを仕掛けて来た。

不味い、と思ったけど詩野ちゃんは予測していたみたいで、久美ちゃんも丁寧にバットの届かないところへ外した。それを捕球した詩野ちゃんは、3塁ランナーの池田さんを優紀ちゃんと挟んでアウトにする。

ノーアウトランナー2塁3塁がワンナウトランナー3塁に変わって、カウントは0-2と追い込んだ。3球目、荒井さんに対しても久美ちゃんはドロップカーブを投げて、空振りを誘う。無事、荒井さんは三振に打ち取って、3番の古谷さんを迎えた。

久美ちゃんのフォークボールを狙い打ちした古谷さんは、しかし打球がセンター方向に飛んだので私の守備範囲内。なんとか5回表を無失点で切り抜けて、試合は同点のまま進む。5回裏の攻撃は、9番の優紀ちゃんからだ。

「友理さんは初回から飛ばしていたし、そろそろ甘い球も来ると思う。しっかりと狙い球を絞れば、優紀ちゃんも打てるよ」

「うん、分かった」

前の打席で良い当たりだったのでこの打席では打って欲しい、と思っていたら向こうも投手を代えて来る。友理さん以上に良い投手は出て来ないと思ったけど、背番号11番のあの人は……軟式で全国大会を制覇した、優勝校の投手だ。

名前は、新開(しんかい) 真左子(まさこ)。名は体を表すという言葉が、彼女ほどピッタリな人はいない。親がプロ野球選手として有名で、彼女も小さい頃から活躍をしていた。名前の通り、左投げの左打ちだ。その左投げで中学3年生の時、軟式とはいえ125キロをマークして話題になった。

……高校で125キロを出す人は珍しくないけど、流石に中学生は珍しい。それも左投げだから、凄く貴重な逸材だ。統光学園は、左右のエースが揃っているのか。

投球練習を見る限り、さらに速くなっている雰囲気がある。とりあえず優紀ちゃんには、よく見て打ってとしか言えないかな。カーブと縦スラを使うことは知っているけど、それはミーティングで御影監督が言っていたし、硬式に適応しているのかは分からない。

優紀ちゃんに対して一球目、新開さんはストレートを投げた。球速は、129キロだ。

……私より、3キロも遅いのか。そう考えると、私も大概おかしなプレイヤーだなぁ。

2球目で130キロをマークして、新開さんは球場を騒めかせる。左腕で130キロは凄いし、そう簡単には打たれない投手だ。相手が強い高校じゃなかったらの、話だけど。

友理さんをベンチではなくレフトへ下がらせたのは、新開さんが通用するか不安だったからだ。たぶん、意図としては1番2番が左打ちだから、左打ちに有利な左投げの投手をワンポイントで投げさせようという魂胆だろう。

だけど、左打ちのバッターが打ち辛いと感じるのは左投げの変化球だ。3球目、低めに決まるストレートを優紀ちゃんは流し打って、一二塁間を破るヒットになる。湘東学園も、打線では決して統光学園に負けてない。