モラハラマザコン野郎と半年過ごしたエッセイ

坂本雅

第1話 こういう方向性の下品もある

 結婚を機に実家からマザコン野郎の家へ引っ越したが、マザコン野郎は月に3万円しか生活費をよこさなかった。

 食費は主にマザコン野郎が出すつもりのようだが、結婚式の支払いだの引っ越し代だの保険料だの支払わなければならない金は山ほどあったので、もちろん足りない。

 私は一ヶ月かけて就職活動をし、徒歩10分圏内の食堂パートに受かった。週3〜4日で5時間、休憩時間は無いが仕事終わりに食堂のメニューを食べても良い。いま振り返っても、わりと高待遇のパートである。

 仕事を始めたとたんマザコン野郎が「もういいでしょ」とばかりに生活費を一切支払わなくなったことに腹を立てながら労働に従事していた。

 割り振られた仕事は始業前のホール清掃とレジ打ちと皿洗い。パートタイム終了間際に店の周辺とトイレの清掃もノルマだった。

 初めてやるレジ打ちに四苦八苦しながらも慣れてきた頃、ある事件が起きた。レジに溜まる『ご飯一杯無料』クーポンをよく確認すると、一枚だけ一年前の日付のものが含まれていたのだ。

 もちろん、事前によく確認すべきではあったが、多忙な昼食どきに紙面の細かな期限まで見るのは難易度が高い。

 名作ゲーム『ペーパーズプリーズ』のことを思い出しながら、今後はこういうミスがないよう気をつけますと店長に謝って帰宅した。

 そして、夕食どきマザコン野郎に事件のことを言うと、奴はしれっと

「ああ、うちの母もたまにワンチャン狙って出すと言っていたよ」

 と笑った。

 私はドン引きした。

 期限が切れていると知りながら、ヒューマンエラーを狙ってクーポンを出す。その下品さに驚いた。身内(姑)にそんな奴がいるとは思いもよらなかった。

 100円程度の誤差であっても、店に迷惑をかけるという点で、軽率な下ネタよりも発言を控えたいタイプの下品ではなかろうか。それを堂々とお笑いネタとして話す神経もどうかしている。

 関わりたくないのに残念ながら身内である。勘弁してほしかった。

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