キルザップ

佐藤 亮

殺人ダイエット

 夏が来る前に私はどうしても痩せなくてはならない。ここ何年も失敗し、他の者に差をつけられてきた。二十代も残り僅かだ。私は意を決してキルザップに申し込んだ。キルザップとは痩せたい人間二人が山中に放たれ、一週間以内に相手を殺すというものだ。決着がつかなければ両方処刑される。精神的、肉体的に追い詰められ、文字通り必死になって痩せるのだ。それがショーとして公開され、成功すれば箔もつく。


 六月の中頃ついにそれは実施された。同性で似た体格の相手とステージに立つ。並行して成功した挑戦者の表彰が行われていた。素晴らしい。見事に痩せている。スクリーンに映るスタート前の姿とは見違える程だ。私の期待はみるみる大きくなり、それが熱い殺意になってカロリーを消費し始めた。

 戦いの舞台となるエリアの両端からスタートする。随所に武器となるものが置いてあり、最寄りの短刀をひっつかんで中心部に向かって猛進した。そこで待ち構え、奇襲をかける。

 四日目の夕暮れ、ついにチャンスが訪れた。点在する給水所の一つに狙いをつけ、待ち伏せていると対戦相手が現れた。私は足音を消して背後に近づく。しかし体力は限界で踏み込んだ瞬間バランスを崩した。倒れ込むように背中に短刀を突き刺すと両手を温かな血が覆った。

 すると突然、上空からスポットライトが向けられた。急に聞こえてくる歓声、音楽、司会者の声。どこからともなく現れたカメラマンとスタッフに抱えられ、ステージに戻った。


 改めて舞台に立つ。自分に向けられた視線と歓声が勝利を実感させる。ここに上がる直前に撮った写真と計った体重がスタート前のものと一緒にスクリーンに映し出された。

 四日で八キロ。

 頬を涙が伝った。初めて何かを成し遂げた気がした。やっと自分に自身が持てそうになった。この夏は大丈夫だ。疲労が吹き飛び私は笑顔で観衆に向かって、来る夏に向かって手を振った。

 意識がはっきりとしてくる頃、私の出番は終ろうとしていた。スポットライトは再び司会の二人に戻る。巨大スクリーンに映し出される二人。そのうちの一人の女性はたしかグラビアアイドルだっただろうか。背は高く顔は小さく、何よりも手脚が細い。このステージに立ち続けるのは私ではなく彼女なのだ。

「もっと痩せなければ」

そう思い、私はもう一度短刀を握りしめた。

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