第37話氷の貴公子の悪だくみに加担させられました

私達はそれから慌てて王宮に行って、カーリナを叩き起こした。


カーリナは起こされて不満たらたらだったが、地味ダサ女に誤魔化されて、仕方なしに、地味ダサ女と王子様を連れて転移して行った。


私はヒール出来なくて、慌てふためく地味ダサ女を見たかったが、さすがのカーリナも四人も連れて転移は出来ないとのことで、アクセリと共に残されたのだ。



「これでアスモも心配事がなくなって仕事に専念できますね」

なんかアクセリが意味不明な事を言っているが、聖女でも治せないと判って絶望して帰ってくるという事だろうか? 


まあ、サマーパーティーまで後一ヶ月も無いのだ。アスモ様ももうじき帰ってくるだろう。


考えたら、地味ダサ女が失敗しても、万が一王子様が見捨てなかったとしたら、そんな事は考えたくないが、そうなる可能性は少しはある。


そうなったら、後は能天気で出来損ないの第二王子か、心優しいアスモか、監禁バッドエンドの可能性のあるアクセリしか残っていない。


そうなるとアスモ一択だ。


失意の元帰って来たアスモを慰めねばと私が考えだした時だ。


私は私を見つめるアクセリと目が合った。

なんか背がぞくりと震えたんだけど、なんて目で私を見ているのよ!


「どうかしましたか。ライラ嬢。少し顔色が良くないように思いますが」

アクセリが私を見て言った。

いやいや、お前の視線が怖かったんだよ、とはさすがに言えず、


「いや、渡された資料が多くて」

「いや、申し訳ありませんね。ライラ嬢なら、なんとかしてくれると思って無理をさせてしまいましたか」

こいつニコリと笑ってくれやがるんだけど。


「本当に大変でした。とりあえず、不正をしてそうな処を二三見つけましたけれど」

私が言うと


「さすがライラ嬢。これでうまくいかなくても、サデニエミ公爵家は終わりですね」

なんかアクセリが急に人のよさそうな顔でニコニコしだした。

こいつがこういう顔をする時は碌な事がない。

目も笑っていないし。

と言うか、今とんでもない名前が出てきた気がするんだけど、あの書類ってトウロネン侯爵家の書類じゃなかったのか?


「あのアクセリ様。あの書類はアクセリ様の所の書類だとお伺いしていたと思うのですが」

私が恐る恐る聞くと


「ああ、あなたにはそう言っていましたね。まあ、もう良いでしょう。貴方もこちら側の人間ですから」

いやいや、ちょっと待って、なんかとんでもない陰謀に巻き込まれそうな気がするんだけど


「あれはサデニエミ公爵家の決算資料なんですよ」

アクセリが爆弾発言を落としてくれた。

サデミエニ公爵家と言えば今の王弟で、一番権力のある家じゃないか。そんなところと敵対したら、我が家なんて下手したら一瞬で飛んでしまうんだけど。


私は青くなった。


「ここのところ公爵家の動きが怪しくて、色々探っていたのですよ」

なんでも無いようにアクセリは言ってくれるんだけど。

下手したら私は公爵家に消される……

ゲームでも失敗して、何度か公爵家に消された。

消されたというのは殺されたということで、破落戸に襲われると言うのは良い方で、魔物の餌にされるとか、公開処刑されるというのもあった。


そんな公爵家に楯突くような事をさせるってどうしてくれるのよ!


流石の私も少しブルッとした。


「大丈夫ですよ。ライラ嬢」

そう言うとアクセリが不敵な笑みを浮かべて私の肩を抱いてくれたんだけど。


私はゾクリとした。


「あなたは心配しなくても大丈夫です。公爵家からは私が一生涯守り切ってみせますから」

ニヤリとアクセリが笑ってくれるんだけど。


いや、待てよ。


考えたら、公爵家も怖いけど、このアクセリも怖いんだけど……

こいつに逆らっても生きていけない気がする。


何しろ氷の貴公子でゲームでは未来の宰相だった。


敵対する勢力は尽く情け容赦無く潰していた気がするし……

ここで逆らったら私も消される?


公爵家は単純なんだけど、このアクセリは執念深くて、執拗、用意周到なのだ。

既に手をいくつか打っているような気がする。


「宜しいですか?」

「はい」

不気味な笑顔で言われれば頷くしか無かったのだ。

でも、私はこのとき頷いたことの意味を知らなかったのだ。

知っていたら、絶対に頷かなかったのに!

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