第14話 地味ダサ女は悪役令嬢に絡まれましたが、馬鹿な王子に助けてもらっていました
「信じられない!」
私は地味ダサ女が帰った後、思いっきり枕を壁に投げつけていた。
私の王子様と一緒に踊ったのも許せなかったが、女人禁制の神聖な執務室にまで入り込み、お菓子までもらったとか絶対に許せなかった。
「どうしてくれよう?」
私を、このヒロインの私を差し置いて王子様と仲良くなるなんて許される事ではなかった。
まあ、でも、落ち着け私。
本来は王子様ルートはこの新入生歓迎パーティーの後から始まるはずなのだ。
この前のフライングなんて、ゲームでなかったし、ヒロインの私の前に、地味ダサ女なんて、弾き飛ばされるはずだ。
そう信じて、私はその夜は寝たのだ。
そして、翌日、私は地味ダサ女と一緒に朝食を取るために食堂に行くと、皆の視線が地味ダサ女に突き刺さるのがわかった。
さすがの地味ダサ女もそれには恐れおののいているみたいだ。
ざまあ見ろ!
でも、まだまだ、これからなのだ。
昨日あそこまでやってくれたのだ。絶対にいかり狂った悪役令嬢が襲来するはずだ。
その悪役令嬢に地味ダサ女は退治されれば良いのだ。
そして、世間の荒波の強さを思い知れば良い!
「よう、ニーナ、昨日は活躍だったな」
早速能天気なアハティが声を掛けてきた。
「凄いよな。殿下と一緒になって二人して会場から逃げ出すなんて」
「そう、もう、愛の逃避行だよな」
ハッリがなんかとてもムカつく事を言ってくれるんだけど。
「あ、愛の逃避行って、誰が?」
「ニーナに決まっているだろう」
ニヤニヤ笑いながらアハティが言ってくれた。
「誰とよ」
「そんなの殿下とに決まっているだろう」
何を当然のことをとアハティが言ってくれた。
「そんな訳無いじゃない! どうやって私が殿下とそんなことになるのよ!」
「だって誰がどう見ても、そう見えたよな!」
「追いすがる女たちから手を取り合って逃げる二人。どう見てもそうよね」
私はそこで大きく頷いてやったのだ。
「そんな訳無いでしょ」
私がきっぱりと否定するが、
「いやいや、あれは誰が見てもそう見えたって」
ヨーナスまで言ってくれるんだけど。
私は頭を抱えてしまった。
「そうよ、この子、昨日の夜に私が散々教えてあげたのに、全然それが判っていなくて」
「ライラ、あんたは私が会長と逃げて行ったから女の人たちから睨まれているって言っただけで、私達二人が愛の逃避行に見えたなんて言ってくれなかったじゃない」
地味ダサ女が大きな声で言っていて、それを周りの女が聞いている。
来たーーーー!
そして、こちらに歩いてくる悪役令嬢を私は見つけたのだ。なんか、身体中に怒りのオーラを漂わせている。
「何言っているのよ。女の人から睨まれるって事はそう言うことだと思うけれど」
私は横目で歩いてくる悪役令嬢を見ながら言った。
「あの後二人してどこに言ったんだ?」
「殿下の執務室に行って、お菓子ごちそうになっただけよ」
「で、殿下の執務室に入れてもらえたですって!」
悪役令嬢がなにか叫ぶかと期待したのに、先に同じクラスのイルマの金切り声が響いた。
「ちょっとイルマ、煩いわよ」
「イルマって呼び捨てしないで」
イルマがさらに金切り声で叫ぶが、
「そこのあなた。今、何と言いました?」
来たーーーー!
ついに悪役令嬢の登場だ!
今こそムカつく地味ダサ女を私に成り代わって成敗するのよ!
イケイケ! もっと言え!
「えっ、ちょっとイルマ様。煩いですって」
なんか地味ダサ女は変なことを言っている。
「はああああ! イマルだろうがオマルだろうが関係ありません。その前です」
馬鹿にされて言われたイルマの方は固まっていたが、悪役令嬢の怒りを見て何も言えなかった。
「えっ、その前ですか?」
地味ダサ女の天然は不滅だ。
なに言ったか覚えていないって、どんだけ天然なの?
王子様はそこに惹かれたのか?
「あなた、馬鹿なの? 殿下の執務室に連れて行って頂いたと言うところです」
「ああ、そこですね」
地味ダサ女はやっと納得した。
「そこですねって、それは本当なの?」
怒りの悪役令嬢は地味ダサ女に詰めよったのだ。
イケイケ、そこだ。張り倒せ!
私の分までやってくれ!
私は期待に身が震えた。
「いやあ、まあ……」
「どうなのよ!」
「まあ、事実なんですけど……」
地味ダサ女が認めたのだ。悪役令嬢の張り手が飛ぶ……私は期待したのだ。
「な、なんで、なんであなたなんか平民の生意気不敬女が殿下の執務室に入れてもらえるの? 私ですらまだ入れてもらえたことがないのに! あろうことか、殿下にエスコートされて一曲踊ってもらえて、なおかつ開かずの間の殿下の執務室に招待されるなんて絶対に許せないわ!」
凄まじい勢いで悪役令嬢は地味ダサ女の両肩を掴んだ。
「えっ、いや、そもそも、私は借り物競争で殿下についてきて頂けただけなんです」
地味ダサ女は必死に言い訳したつもりだったのだ。しかし、それが更に公爵令嬢の怒りに油を注いだみたいで、
「はああああ! 何言っているのよ。借り物競走の相手がパーティーのエスコートをすることは元々殿下が挨拶で仰っていたでしょ」
何かもう、悪役令嬢の手がいつ振り下ろされるか、私はワクワクして、見ていた。地味ダサ女を捕まえている手が肩に思いっきり食い込んでいる。
「そんなの寝ていて知らなかったんです」
「ええええ! あなたあの格調高い入学式で寝ていたの?」
地味ダサ女の一言は意外だったみたいで、悪役令嬢は振り上げた手を下ろしてしまったんだけど。
いやいや、そこで振り下ろさないで! 今こそ地味ダサ女に鉄槌を下すのよ!
「そうだぞ、ユリアナ嬢。学園長の話も兄上の話もぐうすかイビキかいて寝ていてこの女は聞いていなかったのだ」
そこに来なくて良いのに、今度は第2王子がやってきたのだ。
ちょっと、折角悪役令嬢がやってくれようとしているのに、何邪魔してくれているのよ!
「ああ、あの殿下に注意された不敬女がこの女でしたのね」
呆れて悪役令嬢が言うんだけど、ちょっと待ってよ!
肩に置いた手を離したらダメよ!
「でも、こんな女を何故、殿下がエスコートを?」
「公式な式典で、皆の前で注意した事を兄上も気にされたのだろう。まあ、俺は式典でよだれを垂らして寝ていたこの女が悪いとは思うが」
何か憐れみの目で第二王子が言ってくれて、それに悪役令嬢も、染まってしまって、
「そうですよね。殿下がこのような地味な女に惹かれるわけはありませんよね」
「当たり前だ。ユリアナ嬢。兄上ご自身がこの不敬女を皆の前で注意して、この女が皆に注目されたことに憐憫の情を持たれて相手されたに過ぎないのだ。だからそちらの不敬女も二度と兄上に近づくでないぞ」
「なるほど。この子は所詮身分の低い平民の女ですものね」
そう高笑いすると悪役令嬢はあっさりと去っていったのだ。ユリアナと第二王子は並んで出て言ってくれたのだ。
「何よ、あの言い方。自分は全く相手にされていないのに」
本当に、王子は余計なことをしてくれた。信じられない!
私の、地味ダサ女を悪役令嬢を使って、痛い目に合わせる作戦は馬鹿な王子のお陰で、海の藻屑と消えてしまったのだ……
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