第12話 近づきたくない氷の貴公子と踊らされて最悪でした

本日2話目です

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ぶつかる!


私はとっさに目を瞑ったのだ。


そのまま、アクセリ様の胸にドンとぶつかってなんとか抱きとめられたんだけど……


やばい。氷の侯爵令息にぶつかってしまった!


絶対にやばい!


どんな酷い罵詈雑言を言われるだろう、下手したら監禁バッドエンドにまっしぐらだと私は固まったのだ。


「これはこれは、こんな熱烈なお誘いを受けたのは初めてですね」

早速嫌味攻撃の始まりだ。


「も、申し訳ありません」

私は慌てて離れようとした。


「ここまで熱心に誘われたら、私も踊らざるを得ないでしょう」

「?」

ぶつかってきた私を礼儀知らずと散々こき下ろされると思ったのに、何か感じが違う。

そして、それも私を抱きしめてくれたままなんだけど。


「まあ、今まで誰とも踊らなかったヴィルも令嬢と踊ったことですし、私もあなたと踊らせていただきましょう」

「いや、あのトウロネン様、私も無理にはと」

私は必死に逃げようとした。


「何をおっしゃいます。自ら私の胸の中に飛び込んでこられたのです。この冷たいと有名な私の胸に。そこまでされたら踊らざるを得ないでしょう」

でも、氷の貴公子は私を離してくれないのだ。更にきつく抱きしめられてしまった。


「いや、あの、その」

「では、参りましょうか。ライラ嬢」

そう言うと、氷の貴公子は私を連れて踊りの舞台の真ん中へ出ていったのだ。


私はアスモ様を見たらアスモ様は黒い笑みを浮かべて私に手を振ってくれたんだけど。


イヤーーーー、絶対にアクセリルートは嫌なのよーーーーー


私の悲鳴は誰にも聞こえなかったのだ。


「すごい。殿下に続いて今度は氷の貴公子が踊っておられるわ」

「あの子、アクセリ様を連れ出すなんてとても勇気のある子ね」

「心まで凍らされるんじゃない」

「ヤバい、氷の貴公子がこちらを見たわ」

「逃げないとこちらまで凍ってしまうわ」

さあああああっと皆引いていくんだけど。

心持ちさっきと違って、踊る人が少ない。そして、みんな、アクセリを見ると青くなって離れていくんだけど。


なんでここだけこんなにスペースが空いているのよ。どれだけ皆に恐れられているのよ!


「いや、あの……」

私も最悪、監禁バッドエンドがあるアクセリには近づきたくなかったのに! できる限り近づかないようにしていたのに。なんでこんな事に?


アクセリルートはやったことが殆どないから、こんな所に出会いがあったなんて知らなかったのよ。ちょっと待ってよ。


踊るのは流石に侯爵令息。とてもうまかった。


心も凍りそうになりながら、何とか一曲踊りきった。


良かった。終わって。


私はやっと開放されると礼をして逃げ出そうとしたら


「ライラ嬢、少しよろしいか」

と言われてしまったのだ。


いや、良くない……と一介の男爵令嬢に断れる故もなく、そのままエスコートされて、前の方の席に連れて行かれるんだけど。


役員控コーナーみたいなところだ。


ええええ! これは何なの? 


まだ、氷の貴公子には好かれてはいないはずだ。


まあ、私はヒロインだから絶世の美女だし、男たちが群がるのは判るが、この男だけは嫌。


でも、氷の貴公子を恐れてか半径5メートル以内には誰もいないんだけど。私に色目を使おうとした男たちも隣の氷の貴公子を見てあっという間に消えてしまうんだけど。どうしろって言うのよ?


「実は、ヴィルと一緒に会場から逃亡したニーナ嬢のことなんだが」

逃げようとする私をアクセリは引き止めてくれて、地味ダサ女のことを根掘り葉掘り聞いてくれたのだ。


まあ、王子様と一緒に逃亡してくれたからだと思うけれど、王子の側近として聞く必要があったのだろう。私は頭にきていたのでこれ幸いと、地味ダサ女がどれだけ自分勝手な女で、王子様と一緒にエスコートされると周りに吹聴して自慢していたかを話したのだ。


「そうですか。そうですか。しかし、変ですね。彼女はヴィルが王子と知った途端に辞退しようとしたと報告を受けているんですが」

ニコニコ笑いながらアクセリは不穏なことを言ってくれるんだけど。

目は笑っていない。


私は背中に冷たいものが走った。

不味い、氷の貴公子の諜報力を侮っていた。


あんまり嘘を付くと何されるか判らない。

最悪の監禁エンドだけは絶対に避けないといけないのだ。


だからできる限り近づきたくなかったのに。


おのれ、地味ダサ女め! 絶対に覚えていろよ! 

私の心は怒りに満ちていた。


私以外に氷の貴公子を踊りに連れ出す勇気ある者はいず、また、私目当てに近寄ってくる男も氷の貴公子を見て慌てて裂けてくれるので、私は逃げる機会が無かった。


そして、色々と地味ダサ女のことを話しているうちに、生徒会の他のメンツが用があって近づいてきた。


「すみません。忘れ物を思い出しました」

大慌てで理由をつけて私は逃げ出したのだ。


後ろを振り返りもせずに……


何か呼ばれたような気がしたが、全く無視したのだ。


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