第8話 悪役令嬢と第二王子殿下が陰険侯爵令息に怒られました

「おのれ、不敬女め、まさか貴様なんかに負けるとは」

「貴様、女と見せて俺達を油断させて、実は男並みに力があるのを隠していたのは卑怯だぞ」

ゴールした後、地味ダサ女は第二王子殿下に散々嫌味を言われた。


でも、殿下も地味ダサ女に完璧に負けるなんて、ちょっと力が弱すぎるんではないだろうか?


言い訳も男らしくないし。


私は少し第二王子殿下に失望した。


その点第一王子殿下は紳士だし、負けてもそんな言い訳はしないだろう。


「本当におかしいですわ。普通にやったら殿下が負けるわけはありませんのに!

殿下、あの女は何かずるしたに違いありませんわ」

その後に私の本来の位置にいた悪役令嬢が言ってきたんだけど。

ちょっと待って。あなた達、誰の前で言っているのよ! 私はこちらに目をつけた陰険侯爵令息を捉えたのだ。


「な、何ですって!」

地味ダサ女が食って掛かるが、

「ちょっとニーナ、相手はユリアナ・サデニエミ公爵令嬢よ」

私は流石に注意した。


「ユリアナ・猿に見える公爵?」

そうしたら、この女、とんでもない事を言い出すんだけど。

「サデニエミ公爵令嬢よ」

ちょっと、私を巻き込まないで!

「流石に不敬になるから絶対に呼ばないで」

このバカには念押しした。


この地味ダサ女に私が教えたなんて事になったら、下手したら我が商会は終わりだ。


「ちょっと、そこのあなた、今、何か言った?」

悪役令嬢が私に聞いてきたけれど、


「いえ、なんでもありません」

私は必死に否定したのだ。地味ダサ女も地雷踏むなら一人で踏んで欲しい! 私を巻き込まないで!


「それで公爵って男爵に比べて偉いの?」

地味ダサ女のキョトンとした声に、周りの皆はぎょっとして地味ダサ女を見た。


「そんなの公爵に決まっているでしょ」

私のキンキン声が響いた。

「あんた、絶対にわざと言っているわよね」

「ゴメンゴメン、男爵様も公爵様も私からしたら雲の上の存在だからその位置づけが今一つ良く判っていないのよね」

地味ダサ女が言うが、本当か? 普通は平民でも知っているだろう! こいつは絶対にわざとだ。悪役令嬢に喧嘩を売っているのだ。


「ちょっとそこのあなた達、何こそこそ言い合っているのよ?」

悪役令嬢が目を吊り上げてこちらに来るんだけど。


「いえ、それはこちらの話です」

私は必死に誤魔化したのだ。私の視界の端で、何故か陰険侯爵令息がこちらを嬉しそうに見ているんだけど、なんでだ?


「で、何でしたっけ?」

ここで地味ダサ令嬢がさらなる爆弾発言をした。もう止めて。


私の声は届かなかった。


流石の悪役令嬢も切れたのだ。


「はああああ! 『平民のあなた達がずるしていたに違いない』って私が言った事にあなたが文句行ってきたのよ」

悪役令嬢が大声で叫んでくれたんだけど、


「これは聞き捨てに出来ないな。ユリアナ嬢」

横から今まで嬉しそうに見ていた陰険侯爵令息が顔を怒らせて出てきたんだけど、こいつは絶対に喜んでやっている。私の方をちらりと見た顔が笑っていたような気がしたのは絶対に気の所為だ。こいつに好かれて良いことはなにもない。

バッドエンドはこの陰険王子に監禁されてしまうのだ。


「これはアクセリ様」

流石の悪役令嬢も驚いて、いや、恐怖に引きつった顔をしているんだけど。


そう、これは絶対に相手が悪いのだ。


「君はこの会を運営する生徒会に難癖をつけるつもりか。我々が監視しているこの競技によって、卑怯な事など出来るはずがないのだが。確かな証拠があって言っているのだろうな!」

ギロリっと陰険令息の目が光ったんだけど。


「いえ、それは……」

思わずユリアナは口ごもった。


「いや、アクセリ。彼女もそこまでのつもりは」

「これは殿下までいらっしゃったとは」

アクセリはニコリとほほ笑んだ。でも目が全然笑っていない。獲物を前にした猛獣のようなんだけど。そのアクセリに睨まれて殿下までピクリと怯えたように震えた……


「では、どういうつもりだったのですか? 殿下、我々は学園則にのっとって、学園に入学した新入生を、身分の差など関係なしに一日も早くこの学園に慣れていただくように、このオリエンテーションを運営しているのです。当然王族の殿下はご理解賜っていると思いますが」

「いや、まあ……」

人間としての格が違いすぎた。殿下はもうしどろもどろだ。

私は第二王子狙いは完全に止めることにした。

やはり第一王子様だ。この地味ダサ女をエスコートした後私を見たら、絶対に私の美しさが際立つはずだ。


地味ダサ女は何か恐怖の表情で陰険令息を見ているんだけど。


こいつに恐怖を感じさせるなんて余程のことだ。


まあ、私もできる限り噛みたくない相手ではある。


「アクセリ・トウロネン侯爵令息よ」

この地味ダサ女に教えてあげたのだ。


「公爵と侯爵ってどっちが上なの?」

そうしたらこの女はまた頓珍漢な質問をしてきたんだけど。


「基本は公爵のほうが上よ。あんたも、いい加減に一からちゃんと覚えなさい」

「そうする」


「アクセリ様は第一王子殿下の側近で副会長なのよ」

怒られる悪役令嬢である公爵令嬢と第二王子殿下を見て不思議そうにしていた地味ダサ女に私はわざわざ教えてやったのだ。本当に疲れる。


10分くらい怒られた後でやっと私達は開放されたのだ。


何か、こちらを見る陰険令息の視線が生暖かく感じるのは気のせいか?


私は無視することにした。


「そこの不敬女、覚えておきなさいよ」

別れしなに悪役令嬢は地味ダサ女に言ってくれた。良かった、私は目をつけられなくて


「どっちかと言うと被害にあったの私なんですけど……」

地味ダサ女が怒っているが、


「お前って凄いな」

平民の一人が呆れたように言ってくれた。


「平民のくせに、第一王子殿下に無理やりエスコートさせることにするわ、第二王子殿下と喧嘩するわ、挙句の果てにあの煩いと有名な公爵令嬢に睨まれるなんて」

「本当よね。この学内のベスト3と初日で絡むなんて普通はあり得ないわ」

私も頷いたのだ。本当に疲れた。


「そんな事は知らないわよ。そもそも私は元々地味で大人しいんだから」


「「「「そんな訳無いでしょ(だろ)!」」」」

流石の穏健な私もその言葉には切れてしまったのだ。





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