第2話 入学式典でのイベントは地味ダサ女のせいで起こせませんでした
入学式の会場はもう満員だった。
「えっ、C組なんですか?」
私は入り口の受付で示されたクラスを聞いて唖然とした。
変だ。ゲームではAクラスで、Aクラスには攻略対象の第二王子殿下と悪役令嬢のユリアナがいるはずで……私は同じAクラスのはずなのに、何故Cクラスのなの?
私には訳が判らなかった。
まあ、でも、仕方がない。こういうちょっとした変更は得てしてよくある事だ……
でも、クラスが違うって今後の展開に大きく影響するんじゃないの?
私は不吉な予感も感じつつ、指定されたクラスの一番前の席に着いた。
「ごめんなさいね」
私は偉そうな態度で座っている赤髪の男の前を通って自分の席に着いた。
男がムッとして私を睨んで来たのだか、ここは無視だ。
ここはモブの奴なんて無視していい所だ。それにもうすぐイベントで、あまり他の奴と仲良くなって、保健室にそいつに運ばれる事になんかなったら最悪だ。ここは多少冷たいと思われても仕方がなかった。
そう、このイベントはヒロインが生徒会長である王子殿下の式の祝辞の最中に気分が悪くなって倒れて、そのヒロインを王子様が保健室まで連れて行ってくれるイベントなのだ。
私のクラスは何故かAでなくてCだけど、壇上からの距離は同じだ。
問題はないはずだ!
私はこのために服用したらすぐに眩暈のする薬まで用意したのだ。
用意万端なのだ。
「貴方も寝坊したの?」
私の横には、何故か髪の毛のぼさぼさのさっき殿下らと一緒に見た地味ダサ女がいたのだ。
何故こいつが横に?
それと寝坊したからって寝ぐせのついた髪くらい梳かして来いよ、と私は言いたかった。
「違うわよ。ちょっと、迷っただけよ」
一緒にしないでよと私はつんとして言った。
そう、今ここであんまり、仲良くなるわけにはいかないのだ。
「そうなんだ。私はニーナって言うの。ニーナ・イナリよろしくね」
でも、その子は私の冷たい態度も物ともせずに自己紹介してきたのだ。
イナリなんて貴族はいない。商会の娘には情報は命なのだ。一応、貴族の家の名前は全て暗記している。そういう事はこの子は平民のモブ以下だ。将来王太子妃となる私が親しくなる必要もないはずだ。
まあ、でも、あいさつされたのならば返さないと気取った厭らしい女だと噂されるのもまずいか。
「私の名前はライラ・ハナミよ(と言うのよ。がさつな平民さん!)」
いかにも貴族のお嬢様と言う感じで、つんとして、平民風情が話しかけるなというふうに言ってやったのだ。
普通はここで話しかけるのを止めるはずだ。
「よろしくね、ライラ」
でも、その女は全く私の気持ちも考えずに喜んで頷いてくれたのだ。
それも男爵家の令嬢である私の名前を呼び捨てにしてくれたんだけど……
おいおい、平民に呼び捨てにされたのなんて初めてなんですけれど……
私は完全に切れていた。
それに、ハナミって聞いたら、ふつう、王都の大商会の娘だって気付けよ!
さすがに私はむっとしてその女を睨みつけた。
「あっ、始まるわ」
でも、その女は私を無視してキラキラした目で壇上を見出したのだ。
素晴らしい演劇が始まるのを待つ夢見る少女のように。
私は呆れてその女を見た。
いや、まあ、無視しよう。こういう空気の読めない子と一緒にいると碌な事はない。私は出来るだけ付き合わないようにしようと心に誓ったのだ。
それにこれからイベントも始まる。
王子殿下と付き合うようになったら、こんな得体のしれない友だちなんていない方が良い。
私はこの女が何をしようと無視しようとしたのだ。
壇上の学園長の話は長くて退屈だった。いい加減に終わって欲しい。こんな挨拶でもあの地味ダサ女は熱心に聞いているのだろうか? そう思って女を見た私が間違っていた。
先程までキラキラと目を輝かして学園長を見ていた女は、なんと、大口を開けて寝ていたのだ。
ええええ! こいつ、さっきとぜんぜん違うじゃん!
それに、この格式高い学園の入学式に大口開けて寝ているなよ。
私は思わずその女の脇腹をつついたのだ。
貴族の令嬢としてははしたないかもしれないが、寝ているのだから誰も見ていないし良いだろう!
でも、女はビクトもせずに、代わりに私の方にもたれてきたのだ。
な、なんでこうなるの?
ちょっとよだれまで垂らしているじゃない。私の制服が汚れる!
私は完全に切れて無言思いっきり押し返したのだ。
学園長がこちらの方をチラっと見出したんだけど。
ええええ! 私は悪くないわよ。
何回か起こそうとするが、この女はびくともしないのだ。
そして、挨拶が終わって皆が一斉に拍手を始めた。
その拍手の音で女は一瞬だけ起きたのだ。
良かった。
私はホッとした。
そう、これから、本番の王子殿下の挨拶なのだ。
私は薬を握りしめて、タイミングを図ろうとしたのだ。
ゲームでは借り物競争の説明の後で倒れているのだ。
アナウンスが有って第一王子殿下が登壇された。
本当にいつ見ても麗しいお姿だ。
「皆さん。この学園にようこそ」
王子様が話しだした。
私はそのお姿を見逃すまいとして、そして、薬を飲むタイミングを間違えないように身構えたのだ。
でも、その私の肩に隣の地味ダサ女がまたもたれてきたのだ。
こいつ、王子様の挨拶の時も寝ている……信じられない! 学園人気ナンバー1の王子様の挨拶なのに!
大口を開けてなんとイビキまでかき出しのだ。
「ということで借り物競争で君たちがお願いして連れてきた先輩が今日のパーティーをエスコートしてくれる。だから頑張って素晴らしい先輩を捕まえて欲しい」
皆を王子様が見渡す。
「スピースピー」
そこに地味ダサ女のイビキの音が響いたのだ。
殿下が頭を押さえられた。
「流石に、ここまで私の挨拶で寝られるのはちょっとな」
王子様は不機嫌に言われる。
「そこの両隣の君たち。その寝ているニーナ嬢を起こしてくれるか?」
殿下が私とその向こうの男に言ってくれた。
私達は慌ててこの不届きの女を揺り動かしたのだ。
「ニーナ嬢! ニーナ嬢!」
殿下がマイクで話されるんだけど。なんで殿下はこの娘の名前を知っておられるのだろう?
私は不思議だった。
「えっ?」
その地味ダサ女はやっと目を覚ましたのだ。
「ニーナ嬢! やっと起きたか?」
壇上から殿下が呆れて見ておられた。
「夜更かしも程々にするように」
「はい!」
その不届き女は大声で返事してくれたのだ。
「まあ、新入生の諸君も、1日も早く、彼女のように私の前で居眠りできるくらい、この学園に溶け込んでくれたまえ」
その声に苦笑いして殿下が壇上を降りられた。
ん、何か忘れているような……
ああああ!
思わず私は大声をあげるところだった。
そう、私はこの地味ダサ女に気を取られて、殿下の前で気絶するのをすっかり忘れていたのだ。
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ここまで読んで頂いて、有難うございます。
続きは明朝です
この話のサイドストーリー
『転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて恋してしまいました。』
https://kakuyomu.jp/works/16817330667785316908
合わせてよろしくお願いします
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