第32話 勇者、精神が崩壊する
「うわあああああああああああッ!」
仲間を失い、自身の能力値までもが下がっていることに気付いた僕は、悲鳴を上げて後ずさる。
「なんでだ……? どうして弱くなってるッ?! どうしてどうしてどうしてッ!?」
必死に思考を巡らせるが、自分が弱体化している理由が分からない。死んだからなのか?!
「なんでだああああああああああああッ!」
ただでさえ厳しい戦いを強いられているのに、死んだら弱くなってしまっただなんて……こんなのあんまりじゃないかッ!
「もう……だめだァ……」
召喚の間の石畳に両手を付き、絶望に打ちひしがれる僕。目からポタポタと涙がこぼれ落ちる、
大切な仲間たちは尊い犠牲となり、
もう、可哀想な僕のことを立ち直らせてくれる人間はいないんだ……!
「僕、一人で……やらないと……!」
自分が失敗すれば、固い絆で結ばれた仲間たちは二度と戻って来ない。
絶望的な事実が、ここにきて重くのしかかってくる。
「うっ、おえええええええええええっ!」
圧倒的なプレッシャーに耐えきれず、僕は嘔吐した。
でも生き返ったばかりだからなのか、胃液みたいなものしか出てこない。
「クソぉ…………っ!」
ふらふらの身体でどうにか立ち上がり、何度もつまずきながら、召喚の間を後にして魔窟へ向かう。
「はぁ……はぁ……!」
例え自分が弱くなっていようと、勇者である僕が絶対に魔王を倒さなければならない。皆を救う方法はそれしかないのだ。
「ましろぉ……全部……お前のせいだぁッ!」
そもそも、ましろクンがサンドバッグとしての役割をちゃんと果たしていれば、こんな悲惨なことにはならなかったのに。
憎い、憎すぎる。
「ましろおおおおおおおおぉッ! うがあああああああああッ!」
殺したい。この世に存在するありとあらゆる苦しみを与えてからましろクンのことを殺したい……! 内から湧き上がる殺意が抑えきれない……!
「全てが終わったら……絶対に
僕は心にそう誓った。絶対に許さないぞましろッ!
――だがしかし、ここからが本当の地獄の始まりだった。
「ぐあああああああッ! か、身体がっ! とけるううううううッ!」
想像を絶する激痛が全身を襲い、後半はただひたすらに死を願っていたことを記憶している。
そして二回目。
「グギャ?」
「ギャギャギャ!」
「う……がはッ!」
ゴブリンの群れに遭遇して敗北し、短剣で全身をズタズタにされた。辺り一面は僕の血で真っ赤に染まり、憎きゴブリンたちが楽しそうに踊り狂っている。
「ギャギャー!」
「あ、あぎゃあああああああああああッ! あづいあづいあづいあづいいいッ!」
挙げ句の果てに、奴らは動けなくなった僕を火あぶりにしやがった。
あまりの熱さに地面を転がり回るがどうにもならず、熱で肺がやられ、気が狂いそうになるほど苦しみながら黒焦げになって死んだ。
…………三回目。
「うわあああああああああっ!」
ダンジョンに置いてあった宝箱を開けたら、床が抜けて下の階層へ落とされた。
「ぐっ、ごばばばばァッ!?」
そこは真っ暗で、地底湖のようになっていて、僕はなす術なく水中へ沈んでいく。
「ごぽぉッ?!」
もがけばもがくほど水を飲み込んで苦しみ、何も分からないまま死んだ。
四回目。
突然ダンジョンの天井が崩れてきて押しつぶされた。
五回目、爆散した。
六回目、白い芋虫のような魔物の大群に全身を貪り食われて死んだ。
七回目、毒をくらって何度も嘔吐しながらじわじわと死んだ。
八回目、何もない空間に閉じ込められて餓死した。
九回目、召喚の間で自分の首を切り落とした。十回目、崖から飛び降りて死んだ。
十一回目、覚えてない。十二回目、記憶にない。十三回目、十四回目、十五回目、十六回目、十七回目、十八回目、十九回目、二十、二十一、二十二、二十三、二十四二十五にじゅうろくにじゅうななにじゅうはちにじゅうきゅうさんじゅうさんじゅういち――
「あ……ひひっ、ひひひひひっ……!」
数えきれないくらい死に晒し、ようやく正気を取り戻した時には……もうすでに手遅れだった。
※※※※※※※※※※
*ステータス*
【アツト】
種族:異界人 性別:男 職業:勇者
Lv.1
HP:1/1 MP:0/0
腕力:1 耐久:1 知力:1 精神:1 器用:1
スキル:聖剣の加護
魔法:なし
耐性:なし
死亡回数:113回
※※※※※※※※※※
「もう……だめだぁ……!」
僕には戦える力なんて残っていない。
「う、うわああああああああああああああああああッ!」
取り返しのつかないところまで弱くなり、観光客のましろクン以下だという事実を数字として突き付けられた僕は、もはや立ち上がることすらできなかった。
全てに絶望し、剣を引き抜いて自分の腹へ突き刺す。
「ぐっ、がぼぉッ!」
口から血が噴き出し、ゆっくりと意識が遠のいていく。
「がぁっ! ま、まって、いた、死ぬっ! 死ぬってっ、がはぁッ!」
後悔しても既に遅く、剣が刺さったまま悶え苦しみ、僕は百十四回目の死を迎えた。
「…………はっ!」
そうして復活したところで、ようやくこの苦痛からは逃れられないのだと悟った。
勇者とは死ねない呪いだったのだ……!
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