俺の職業は『観光客』だが魔王くらいなら余裕で討伐できると思ってる〜やり込んだゲームの世界にクラスごと転移したが、目覚めたジョブが最弱職だったので追放された件〜

おさない

第一章 英雄の誕生と勇者の没落

第1話 観光客、追放される


「ふん! 貴様のような使えない異界人いかいじんはダンジョンでも観光してのたれ死ね! 処刑されなかっただけ感謝するんだな!」


 王の命令によって俺をお城の外へ放り出した兵士は、去り際にそう吐き捨てていく。


「おいおい、勝手に俺を召喚しておいてそれはないだろう。自分勝手な連中だ。やれやれ恥を知れ」


 文句を言いながら立ち上がるが、その時既に兵士の姿はなかった。


 無一文、着の身着のままの制服姿で、俺は追放されてしまったのだ。


 ――だが、俺のポケットには飴玉が一個だけ入っているがな。これは後の伏線となるから覚えておくといい。


「まったく……やれやれ……」


 ため息混じりにそう呟く俺。


 ちなみに、名前は観音崎かんのんざき真城ましろ。ごくごく普通の一般高校生男子だ。


 しかし先日、俺たちのクラスは授業中に召喚魔法で異世界に呼び出されてしまったのである。


 石畳が敷き詰められた薄暗い広間に突如として召喚された俺たちは、黒いローブを身にまとった魔術師っぽい奴らに囲まれ、玉座の間へと連れて行かれた。


 そして訳も分からぬまま、王冠を被ったひげヅラの爺さん――自称国王の前に立たされ、一人ずつ職業ジョブとやらの鑑定をさせられたのである。


 国王の話によると、どうやらこの世界に召喚された俺達のような人間には、女神から職業ジョブという特殊な力を与えられているらしく、その能力を使ってエルニカ王国を脅かしている魔王『ヴァール』を討伐して欲しいのだそうだ。そうすれば、王から報酬を貰えておまけに元の世界へ帰してくれるらしい。


「ていうかこれドッキリでしょwwwカメラどこwww」などと現実を受け入れられていないクラスメイトが大半だったが、俺にとっては実に馴染みのある雑な導入だ。


 内心そんなことを思っていたのだが、問題が起きたのはここから。


 鑑定の結果、他の奴らは『勇者』やら『聖騎士パラディン』やら『大司祭ハイプリースト』やら『大魔導士ハイウィザード』やら『剣聖ソードマスター』やらの強そうな職業ジョブであることが判明していく中、俺が与えられた職業ジョブは『観光客』だったのである。


 クラスメイトからは、


「なんだよ観光客ってwww」

「見ろよコイツのステータスwww知力と腕力1じゃんwww」

「ざっこwww無能すぎwww」

「底辺は異世界に来ても底辺なんだねええええwww」

「きもw」

「カメラさんコイツにモザイクかけてくださーいwww」


 などと嘲笑ちょうしょうされ、王たちからは、


「ふむ……ここまで役に立たない職業ジョブを与えられる異界人が居たとは……驚きじゃな。追放」

「さあ出て行け! 二度と城の門を跨ぐな! ……あ、城下町の観光はしてもいいぞ。観光客だからな!」

「さあ、こっちだ! 俺について来い、この役立たず観光客! ……え? お金がないのにどうやって暮らせば良いのかって? 馬小屋にでも入っとけ!」

「うじ虫!」


 などと散々罵倒ばとうされた。


「ばーかばーかwww」

「オラッ、さっさと出て行けッ!」


 そんなこんなで俺が追放されかかっていたその時、


「待ってくれみんな!」


 クラスのリーダー的な存在であるアツトが、突然大きな声を上げる。


「確かに……ましろクンはどうしようもない問題児だ。協調性がなくて、ボソボソした喋り方で、気持ち悪くて、性格が悪くて、友達が一人もいない! その場に居るだけでクラスの和が乱れてしまう! 可哀想だけど……どうあがいても、みんなの足手まといになってしまうだろう……っ!」


 言い過ぎだろ。


「でも……それでも僕達は仲間なんだッ! なのに、本人の意思を確認せずに追放してしまうのはおかしいだろッ! 職業ジョブに目覚めた僕としては、大切なクラスメイトをそんな風に見捨てる訳にはいかないッ! 僕たちは同じ人間なんだ! どんなに嫌なヤツだったとしても、話し合えばきっと分かり合えるはずさ!」


 何やらゴチャゴチャと話しているアツトだが、結局はコイツも俺のことを馬鹿にしたいだけのようだ。実に単純な奴である。


「さ、流石はアツトだぜ……! どこまで良い奴なんだ……ッ! でもマシロはクソ野郎だから死ね」

「きゃ〜っ! ゴミクズにも優しいなんて、アツトくんカッコいいっ! でもマシロはキモいから死ね」

「そもそもアイツ、今までどのツラ下げて学校通ってたの?」


 ――訂正しよう。実に単純な奴である。俺のクラスメイトには救いようのない馬鹿と愚者しか居なかったらしい。


「ほう、素晴らしい心を持った若者じゃな……勇者という職業ジョブが与えられるのも納得じゃ……! 死んでも問題のない観光客とは大違いじゃな……!」

「王! 良い事を思いつきました! 死んでも問題のない観光客を死刑にしてやりましょう! きっと民衆も喜ぶはずです!」

「……確かに、魔王の脅威によって民衆の不満が高まっているからな。皆、娯楽に飢えているはずだ。憎しみをぶつける対象としてはこの上ないかもしれん……。王、ご決断を!」

「死刑! 死刑! 死刑!」


 こんな国はいっそ滅ぼされた方が良いのではないだろうか。


「……という訳でマシロくん。この場に残っても死刑になるだけみたいだし……大人しく追放されることに同意してくれるかい? 沈黙は肯定と受け取るよ!」 

「いや、俺は――」

「うるさい!!!!! ゴミが口答えするな!!!!」

「…………」


 この場に正気の人間はいないのか?


「俺はこの世界のことを――」

「黙れ!!!」

「おれ」

「いい加減にしろッ!!!」

「………………」


 俺が黙ると、辺りが静まり返る。


「わかった! ありがとう! 厄介払いができて嬉しいよ!」


 そんなこんなで、俺は満場一致で追放されたのである。


 *


「やれやれ……」


 言われたとおりに城下町を観光しながら、制服に着いた埃を軽く振り払う俺。


「まったく、いきなり追放するとは……ここが死ぬほどやり込んだ『エルニカクエスト』の世界でなければ、本当にのたれ死んでいた所だったぞ」


 エルニカクエスト――通称『エルクエ』は、攻略の自由度が高いことで有名なアクションRPGだ。


 複数の職業から自由に選択して主人公のキャラを作成することができ、プレイスタイルは人によって千差万別。


 メインダンジョンである『魔窟まくつ』の最下層に居るラスボス『名状し難きヴァール』を討伐すること以外にも色々と遊べる為、やり込めばやり込むほど深みにハマっていく時間泥棒なゲームである。


 しかし、その分覚えなければいけない要素が多く、初心者は間違いなく事故って死ぬので、死にゲーとしても名高い。


 死んだら強制的にデータが削除されるハードコアモードまで存在しているしな。とにかく人を選ぶゲームであることは間違いない。

 

 おまけに『観光客』は、全ての初期ステータスが全職業中最低という正真正銘の最弱職。覚える魔法は「生活魔法」というゲームではほとんど役に立たない領域のものばかり。


 特に序盤が大変で、レベル1だとそこら辺の盗賊やゴブリンにも余裕で負けるくらい弱いため、上級者向けだと言われている。


 …………だがレベルは上がりやすく割と何でもできるため、序盤さえ乗り越えてしまえばそこそこやれるがな。


 むしろ、見るからに強そうな『勇者』やら『聖騎士パラディン』やらの上級職の方が危ない。


 それらはレベルアップに必要な経験値が多いうえに、レベルが上がるにつれてステータスの伸びが悪くなり、終盤に差し掛かるとゲームの攻略がかなりキツくなるというとんでもない罠があるのだ。


 序盤は楽なせいで、何も知らない初心者が選ぶとシステムをよく理解しないまま良い感じのところまで進めてしまうからな。あの様子だと、いずれ地獄を見ることになるだろう。かわいそうに。


 俺を追放しない方が役に立ったと思うんだが……まあ過ぎたことだ。


「とりあえず、まずはこの国の観光でもするか。俺は『観光客』だからな」


 そうして俺の冒険……ではなく、のんびり気ままな異世界観光が始まったのである。





 *ステータス*


【マシロ】

 種族:異界人 性別:男 職業:観光客

 Lv.1

 HP:8/8 MP:5/5

 腕力:1 耐久:2 知力:1 精神:2 器用:2

 スキル:鑑定、値切り、旅の経験

 魔法:クリーン

 耐性:なし



【アツト】

 種族:異界人 性別:男 職業:勇者

 Lv.1

 HP:77/77 MP:28/28

 腕力:22 耐久:15 知力:16 精神:13 器用:18

 スキル:聖剣の加護、呪い避け、魔物特攻

 魔法:ライトニングボルト、ホーリーランス、リザレクション

 耐性:電撃耐性、暗黒耐性

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る