第14話
婚約破棄騒動から一年半が経っている。離宮に七人を監禁していたボイド公爵とイエット公爵は一年半かけて根回しをし、無血開城によるクーデターを成功させた。
クーデターといっても、ボンディッド王国国王に王国解散の書類にサインをさせ、主たる貴族で同盟を組んだものだ。
「本来はボイド公爵が適任なのですが、騎士団団長であった経緯から私の方が旗印には良いだろうということになりました。彼も本日の同行を望んだのですが、同盟に加入しなかった家への対応をせねばならないため、あちらから出られないのです」
「欲が絡むことですから、一枚岩とはまいりませんよ」
「アハハ。東部をおまとめになった大公閣下に言われても説得力はありませんな」
「あの時にはボンディッド王国国王という共通の敵がおりましたからできたのです」
「なるほど。こちらは国王から甘い汁を吸っていた者もおりますから共通の敵とはならなかったのです。
そういう輩を選別できたといえば両得にはなりました」
二人の話は穏やかに進んでいく。
「とにかく、大公閣下がご用意してくださった資金のおかげで、根回しがスムーズにできました。ありがとうございました」
「いえいえ」
「それにしてもあれだけの大金をどのように用意なされたのですか?」
サイモンはフフフと策略家かのように笑った。
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卒業式の翌日、王城も騎士団も閑散としたことにショックを受けて、外務大臣室で項垂れていたイエット公爵とボイド公爵の元に現れたのはなんとキャビだった。
二人はキャビに連れられて王都にある元シュケーナ公爵邸へ行った。その屋敷の地下室へ着くとそこにはお金が山のようになっていた。
「なんなんです? これは?」
ボイド公爵は眼を見張る。
「宰相殿の金か?」
イエット公爵も同じ公爵という爵位だが、これほどの金はお目にかかったことがなく驚愕した。
「ご主人様より、お二人が卒業式の後、王家三人をしっかりと管理するようならこのお金をお任せするようにと仰せつかりました」
二人が国王たちを離宮に監禁したことをキャビは知っている。
「このお金を是非ボンディッド王国の国民のためにお使いください。これは本来国庫にあるべき物なので、我が主を慮る必要はございません」
「え!? そうなのか?」
キャビは大きく頷いた。
「着服もできたろうに……。宰相殿は……」
二人は悲しさと嬉しさと憧れとで複雑な顔で笑った。
「これほどの金があればこの国を纏められます。だが、これを動かすとなると大事ですね。
そうだ! 私は妻との離婚を考えておりますゆえ、しばらくここに住み、これを守りましょう」
「でしたら、ワシも! 二人で話し合いのため泊まり込むということでどうですかな?」
「それは色々と手間が省けていいですね」
キャビから鍵を預かった二人は自分の屋敷で妻を軟禁することを指示し、数人の使用人とともに宿泊施設のようにシュケーナ公爵邸で暮らすこととなった。
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「国王と王妃が散財していることはお調べになりましたか?」
サイモンはソファーにゆったりと座りお茶を口にしながら話を進めた。
「ええ。凄まじい金額で驚きました」
「あれら――国王と王妃――はただ散財することを楽しんでいるガキなのですよ。買ってしまえば何が倉庫にあるかなど興味もない。
倉庫には袖も通されていない服や箱から出された形跡もないアクセサリーが溢れておりました」
「それを全て売ったのですね」
サイモンはしてやったりとニタリと笑う。
「いいえ。最新デザインで高値となるものしか売っておりません」
「え!? でも、倉庫には大公閣下があの日に仰られたほどの物はありませんでした」
卒業式の日『この百倍は王宮に保管してありますでしょうに』とサイモンは国王たちに侮蔑の視線を向けていた。
「私の妻の腕、ですよ」
イエット公爵は首を傾げる。
「王宮の倉庫にあったものをリメイクして二人に売りつけたのです」
「なるほど! あの卒業式の日にお聞きしたお話ですなっ! 大公閣下の装いがまさか夫人の手作りだは驚きでした。才能のある妻君で羨ましいですなぁ」
妻を褒められたサイモンは顔を綻ばせる。サイモンの個人ブティックから売ったような形なので帳簿的には問題ない。価値的に問題があったとしても。
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