第147話 功績③

「い、いやいやいや、何言ってるのお兄様!?」

「その口調でお兄様と言われるのは、新鮮だなフィーア」

「あ、そういえばそうだね……っじゃなくて!」


 決闘。

 その一言にフィーアは強烈な反応を示した。

 反応からして、彼女の言いたいことは一つしかないだろう。


だよ! お兄様相手に、決闘で勝てた人はこれまで一度としていなかったじゃない!」

「まぁ、そもそも王族が誇りを賭けての決闘をそう容易く行うべきではないからな」

「剣術試合だって、この国でお兄様に勝ったことがあるのはお母様だけ!」

「あの方は強いからな」

「どっちにしろ無茶だって言ってるの!」


 無茶。

 色々言っているが、要するに結論はその一言だ。

 あまりにも明快に、単純に。

 俺はラーゲンディア王太子殿下に勝てないらしい。

 いや、そりゃそうなんだけども。


「殿下って、魔術はどこまで使えるんだ?」

までだって」


 ああうん、そりゃ勝てない。

 俺のアドバンテージは魔術の技巧だ。

 中級の上級化。

 一流魔術師の中でも、更に一部しか使えない技術で相手を圧倒する。

 それ以外に、格上の戦士を倒す手段はない。

 で、王太子殿下の魔術の腕前は俺と同等らしい。


「使える魔術は身体強化と一部の攻撃魔術に限られるが……」

「十分だよぉ」


 補足が、むしろ絶望的な状況を決定づけてくれた。

 その二つが使える、俺より数段格上の剣士。

 これを俺の魔術の腕でひっくり返すことは、どれだけ考えても不可能だ。

 詰んでいる。

 フィーアの反応は、まさに正鵠を得ているというほかない。

 そのうえで、



「その決闘、受けます。王太子殿下」



 俺は、その決闘の申し出を受けた。


「ハイムくん!?」

「おお、やってくれるか」

「はい。決闘をそちらから申し込んだということは、こちらで決闘の内容を決めても?」

「もちろんだ」


 何せ、俺から決闘を申し込むならともかく。

 向こうから決闘を申し込んでくれるなら、勝機はある。

 それくらい、決闘の内容を決められるというのはアドバンテージなのだ。

 普通、それで確実に勝てる勝負を選んだのなら、負けるわけはないのだが。

 まぁ、例のあいつのことを今思い出しても意味はない。

 それに、俺は勝機があるだけで、勝てるわけではないからな。


「ちょ、ちょちょ、大丈夫なの!?」

「もちろんだ。フィーアは決闘の立会人を頼む」

「え?」

「……これは私闘だ。教師に頼むわけにもいかないだろ?」

「そ、そっか」


 まぁ、そもそも決闘とはいっても、お互いの尊厳を賭けるわけでもないからな。

 グオリエの時と比べると気楽だ。

 こちらのほうが、更に負けられない決闘になるとはいえ。


「じゃ、じゃあ決闘の方法は?」


 フィーアの問に、俺は答える。



「魔術禁止の、木剣を使った模擬戦」



 その一言に、フィーアはいよいよ持って驚きで叫び声を上げた。

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