第139話 王太子①

 ラーゲンディア王太子殿下、赤獅子の名の通り、赤髪の巨漢。

 まさに剣を振るうために鍛え上げられた肉体と、それを覆う鎧。

 威風堂々たる振る舞いは、王の器と呼ぶに相応しい。

 それは、単純に本人の王としての立ち振る舞いが素晴らしいというだけではない。


 他人の目を惹きつけるのだ。

 もとより、こういった普通王太子殿下が現れないような場所に、彼が現れた時点で注目は集めるのだが。

 それに加えてさらに、彼は周囲の視線を集めさせる何かがある。

 一般的にそれはカリスマと呼ばれるものだろう。


「アレが、王の気配と言うやつなのだろうか」

「人によるデスね。例えばフィオルディア陛下は、むしろ優しげな雰囲気で周りを威圧したりはしません。なのに、周りはフィオルディア陛下に尽くすものばかりデス」

「おに……殿下のカリスマ性は、本人の努力で磨き上げたものなんだよ。おと……陛下のそれは、自然体のものだから」


 フィーアは、全然誤魔化せていない補足をした。

 ともあれ、なんとなくわからなくもない気がする。

 フィオルディア陛下は、生まれながらにして王だったという話がある。

 魔術の天才にして、賢王たらしめる知性の人。

 そのあり方は、魔術を国是とするマギパステルに置いて、何よりも得難い素質だろう。


 対するラーゲンディア殿下は、魔術の国であるはずのマギパステルに置いて、剣の才を誇る人物。

 王としての覇気と、気質は陛下にも劣らぬものがあるが、マギパステルでの王道は間違いなく陛下だ。

 そんな王道を征く陛下と同じ道を進んだのでは、陛下の下位互換にしかならない。

 だからこそ、剣という形で別の才を発揮した。

 そうすることで、両者の比較を無意味とするために。


「マギパステルにおいては、どちらが王として優れているかで言えば間違いなくフィオルディア陛下デス。しかしその後継として、新たな道を進む意志を見せるラーゲンディア様は、まさに時代として相応しいデス」

「なるほどな……ん?」


 と、そこで気付く。

 殿下、こっちを見てないか?

 一瞬驚いた顔をしてから、それを繕って手を上げている。

 これはなんというか……


「まずいデスね」


 そう語る皇女の顔は、なんとも気まずそうなものだ。

 取り繕っているが、殿下も似たような雰囲気を感じる。

 これはあれか、殿下は皇女を見つけた。

 見つけた以上、挨拶をするのは当然。

 お互い王族なのだから。


 だが、そもそも殿下が皇女を見つけた原因は、皇女がそこにいたからではない。

 フィーアも一緒にいたからだ。

 それに驚いてしまい、周囲が何事かと殿下に視線を向けた。

 結果殿下は皇女を無視できなくなってしまった。

 その学友である、フィーアも含めて。


 フィーアと視線を合わせる。

 お互いに苦笑いをした。

 これからフィーアは、兄である王太子殿下に、皇女の友人として紹介されなくてはならないのだ。

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