下界の見えざる者たち

染谷 式部

夏休み編

第1話出会い

 一人の子供が隅で泣いている。

 他の音は一切聞こえず、鳴き声を除けばそのあたりはシンっとしていた。

 そう、ここは葬式。木魚が聞こえて、あたりが浄化されるような、そんな空気だ。

「うう、、おかああさん。なんで僕より先に死んじゃうんだよ...」

 その姿を、見つめることしかできなかった大人達。

「萌咲...萌咲...うう...」

 それは、母の名前だ。

 大人たちも同じ姿だった。

 そんな中、子供の目に何かが映った。

 小さい黒いものが座っている。

 自分の目の前に突然現れた。

 しかし、子供は声を上げ気力がなかった。

「だ、だれ...?」

 小さい声で、黒い何かに問う。

「坊主、あれお母さんか?」

 棺桶の少し上を指さす。

「違うよ、少し下」

 指をさされた方向を見て答える。

「なるほど、坊主、見えないのか...」

 黒いのは、少し考えた顔して思いついたようにこっちを見る。

「じゃあ、これをやろう」

 黒いのは、僕の足に手を当ててくる。

 少し経つと手を放してきた。

「坊主、もう一回あそこ見てみろよ」

 また、棺桶の少し上を指で刺す。

 おかしい。何か見える。

 天に上るお母さんが見えた。神々しい光とともに、僕のお母さんが上っていく。

 そして、お母さんはこちらを一瞬見て、微笑んだ気がした。

 そして、上へ行き見えなくなった。

「お、お母さん...」

 この一瞬のお陰で少し、心に整理がついた気がした。

「どうだ、坊主。よかっただろう」

 黒いのが言った。ありがとう。

 実際に言葉として出せなかったが、少しは伝わったと思う。

「あ、あのさ。君って何て名前なの?」

 質問をしてみる。

「俺は、尊寿。坊主覚えておけよ」

 そうして、僕の目の前から消えてしまった。

 その日から、世界が変わった。



 あの日から、数年がたった。

 僕は、成長して高校生になった。

 正確には、高校1年生だ。

「良太、そろそろ学校だぞ」

 下の階から、父親の声が聞こえてくる。

 良太は、あの葬式で泣いていた子供の名前だ。

 そう僕、良太は何かはしてみたいが、その何かが決まっていないただの陰キャ高校生だ。

「お、重い...」

 何か感じる。背中あたりに、何か乗っかている。

 恐る恐る背中に目を向ける。

「お、目覚めたな」

 なんだこいつ。ああ、いつものことか。

 そこには、世間から幽霊と言われているものだった。

 あの日から、見えるようになってしまった。

 霊感というものが感じるようになってしまった。

 今も、そうだ。

 しかし、当然そんなのは誰にも信じられない。

「邪魔だ。失せろ」

 強めの言葉を投げかける。

「乗れねーな―」

 そんなことを言って、どこかへ行ってしまった。

 どうやら、この家は事故物件らしい。

 さぁ、学校へ行く準備を開始するか。

 そうして、良太は学校へ向かった。

 いつもの日常。これが続いている。

 この数年間、ずっと。

 今日も、良太は歩み始める。




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