第13話
『二度と協力費は稼げない』
そう考えていた院長だったが、そんな心配は不要だ。
新しいカンバスを見つけた召喚獣たちが、油性ペン片手に笑って待っているのだから。
明日になれば全身をペインティングされた新作が発表されるだろう。
「あなたたちは全身の機能が弱っています。数日の検査後に異常が見られなかったら
そう言って、最後に「お目覚め、おめでとうございます」と心にもない祝いを口にして院長は部屋をでていった。
ここから先、サンドビエッター前当主夫妻だった者たちにとって、辛く恥ずかしい日々が始まった。
何より辛いのは、寝たきりの二人は下の世話をされることだろう。
しかし、動けないし声も出ない二人には暴れることも激しく罵ることもできない。
視力に悪影響があるため、薄暗い中で下腹部にだけ当てられるライト。
どんなに睨んでも見えない以上、相手には一切効果がない。
そのうち、大人しくしていれば早く辱めを受ける時間が短くなる事に気付き、されるがままになった。
さらに五年の年月が流れた。
二人は杖をつきながらでも施設内の中庭を散歩できるまでに回復した。
その間に、ここが罰としてペインティングを受けたため外の世界で生きられない者の終の住処だと知った。
その中にはかつての貴族仲間たちもいた。
彼らもまたペインティングの罰を受けたものの今では消えている者たちだった。
「国王陛下」
「私はもう国王ではない」
フェリアとノーズの婚約に異議を唱えて、会議室で召喚獣たちにペインティングされた彼らも、全員がこの施設で余生を送っていた。
彼らはペインティングを施されてから歳をとっていない。
その異常さからこの施設が建てられて、保護の名目で隔離されていた。
……その中にエバンスもいる。
彼が老けなかったことが異常性の発見になった。
学園には12歳で入学し16歳で卒業。
エバンスとセリーナは四学年生、15歳だった。
セリーナは夜宴で磨かれて妖艶な性奴隷になった。
それに反してエバンスは成長しなかった。
不気味に感じた当主から貴族院に訴えが提出されて調査された結果、彼が成長していないことがわかった。
同時に身体にペインティングされた国王陛下や貴族たちにも老化が起きていないことが判明した。
そして、治療という名の幽閉を受けた。
「そちらはどうですかね?」
「機能回復訓練でだいぶ動ける様になりました」
「それは良かったです。奥方は?」
「私はまだ……補助士の助けが必要ですが」
「それでも、最近はこのガゼボまで息を切らせることなく歩けるようになりましたな」
「はい。ここまで来られず途中で引き返しておりました」
「それを考えると大きな進歩ですな」
それは彼らも同じだろう。
見下すしかできなかった『貴族意識の塊』が、他人を気遣うようになった。
「ところで老化は?」
「見られませんな」
「新聞の細かい文字も霞まず」
「……我らは、すでに神に見捨てられた存在なのだろうか」
彼らはこの施設に幽閉されて久しい。
施設の外では300年の時が流れていた。
自らもしくは幼い頃親に神殿でペインティングを受けた者たちはここにはいない。
無事に天寿を全うしたからだ。
だからこそ、召喚獣の罰を受けた自分たちは見捨てられたと思っていた。
しかし彼らは見捨てられたのではない。
ただ『召喚獣たちに罰を与えたことを忘れられた存在』なのだ。
召喚獣たちに愛されて神域に迎えられた召喚師と世話役が彼らの存在に気付くまであと500年。
そしてさらに500年の時が過ぎ、神が死を与えるまで転生の輪から取り残された彼らの終わらない日々は続く。
召喚獣に勝るものはなし アーエル @marine_air
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