ブラッディ・シンドローム

梅里遊櫃

【開講説明会】〜真理の森〜

 聞こえるのは少女の息切れと森のさざめきだけだった。

 右手には温もりを感じていた。

 本当の感触か、記憶を辿ってもわからなかった。 


 夜闇よりも暗い髪の毛の少女は温もりを感じながら、森に惹きつけられるように走っていた。


 急げ、急げ。 強く引かれる手。

 少女に聞こえているのは自分と自分より大きな人の息切れ。

 それは、森の中の不可解すぎる周りの状況に似合っていた。

 少女は顔を疲労によって歪ませていた。


 森は、木々の葉によって光を遮られていた。

 夜の暗さがより濃くなる。


 馬の小道を二人は一生懸命走る。


 小道の走り向かっている先から光が零れ始めた。


 光に向かって走っていった。

 そこは、木が切り倒されたのか伐採されていた。月の光が突き抜けるように射していた。

 だが、森の中にいるのもあり、少し薄暗い。 周りの風景は、花の色が月光に照らされ光っていた。

 しかし、葉擦れの音、そして虫と動物がく音が不気味なほど目立ち薄気味悪くも綺麗で心地よい。


 走っていたこともあり、少女は疲労感を癒そうと花畑に座り込む。

 ゆっくりと乱れた息は、ゆっくりとよくなっていった。

 走りすぎによって震える足も、ゆっくりと震えがやみ、 元の状態へと戻っていった。


 刹那、月から声が降ってきた。


 少女は音源を辿るように沢山の星が煌めき突き抜けるような明るい夜空を見上げる。



 どこにも誰も居ない。

 薄気味悪く、声だけが降ってきたように感じてしまう。



「隣にいる。 必ずいるよ」



 幻想みたいに優しい声は、残酷にもずっと繰り返し続けた。 誰も居ない虚無感の中で、 少女に優しく声をかけ続けるのだ。

 だがその声すらも、最後には消えてしまった。


 誰かが昔に言った。

 思うだけは出来ても具体的な答えは出せない。

 それが想い人だったか、兄弟だったか、親だったか。 少女から、少し大人になった彼女は全て忘れてしまった。


 俯いている彼女は、体をちぢこませ、自身を抱きしめている。

 砂や草を踏み込む音がする。

 足音で彼女の前に誰かが立つ。 怪しく想った彼女は気になった目の前の人物を気にしないフリをして、話を聞くまいとより縮こまった。



 また、月のような優しい声が降ってくるのだ。



 月みたい。

  残酷なくらい、優しい光みたいな声 そう思わせるのはいつの出来事だったか、彼女には思い出せない。

 とてもくるしくて、懐かしいそんな声だ。



「君はまた僕を見てくれるだろうか」



 寂しさのあまり自分を守るように己を抱きしめている女を動作をもう一度近づく音を鳴らして見つめた。

 彼はしゃがんだ。

 そんな彼女を見つめているのだ。



 それは、永久にも思える時間の出来事。

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