思想日記
沸騰 進
赤いカーテンを開いたらそこは
朝目を覚ますと、やけに自分の体が重い事に気が付いた。
視線を腹辺りにやると、自分の体が風船になっているのだった。
例えると、「チャーリーとチョコレート工場」のガムを噛んでいた女の子が、膨れ上がってボールのようになっている姿。あれに近い。
頭だけが風船からぴょこんと出ているので、他から見たらきっと物凄く間抜けに見えたに違いない。
幸い、僕はアパートに一人暮らしをしている身であったので、僕のこの醜態を晒す相手は、今のところ居なかった。
何とか起き上がろうと体(とはいっても今は風船なのだが)を揺らし、しばらく試行錯誤をしていると、段々とコツを掴んできた。
頭を精一杯後ろへ引っ張り、一気に前へ突き出すと、体(とはいっても今は風船な)が跳ね、僕は勢いのままに立ち上がることが出来た。まずはベッドから降りることにしよう。
頭を上に勢いよく突き出すと、僕は風船ごとジャンプし、床へと着地した。
その弾みで、着地した瞬間凄まじい轟音が響いた。
下の部屋や隣の部屋から怒鳴る声が聞こえてくるが、今はそんなことを気にしている場合では無い。
今考えるのは、どうやって元の身体に戻るべきか、ということである。
しばらく考えて、思いついた結果は、「風船を割る」ということだった。
僕には今体(とはいっても今は風)の感覚がない。つまり風船の中に体(とはいっても今)が詰まっているのか、そもそも体(とはいって)が完全に風船へと変わってしまったのかが分からない。そんな中風船を割るということはとてもリスクの高いことである。
とはいえども、寝起きの僕にはそれ以外選択肢がなかった。
風船を割るために、窓から飛び降りることにした。
そのためにはまず、赤いカーテンをあけなければならない。外から差してくる日光が、赤いカーテンの色を部屋中に満たしていた。
カーテンを開けるために、僕は体(とはいっ)を反復横跳びのようにして飛び跳ねさせる必要があったため、その度にずっしんずっしんとアパートを揺らさなければならなかった。
痺れを切らした隣の部屋と下の部屋の住人は、どうやら僕の部屋に怒鳴り込みに来たようだったが、風船から頭がぴょこんと飛び出している謎の物体が左右に揺れている様子を見た途端、大声を上げて逃げていってしまった。
ようやく、赤いカーテンを開いたらそこには、自由が広がっていた。
僕はうんと体(とはい)に力を込めてジャンプをした。ベランダの柵を乗り越え、空中へと飛び出した。先程までアパートを揺らすほどの質量を持っていた僕は、何と空中に浮いていた。それどころか、どんどん上へと浮遊していった。
そして、僕はそのまま、どこまでも、どこまでも、果てしない空を飛んでいくのであった。
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