能力無しの格闘訓練

蓮)はぁ、バイク乗るのはしばらく先になりそうかな...


俺は神楽から貰ったバイクをもの寂しそうな目で見つめて家の中に戻った。神楽は仕事の都合で手配していた車で行ってしまった。


蓮)ただいま〜。


テンションがだだ下がりの俺を見て2人は驚いた。


強矢)どうしたんだよ。そんなテンション下がっちまって。さっきまで子供みたいに嬉しそうにしてたのに...喧嘩でもしたのか?


鈴仙)なんかあったの?バイクの種類が違ったとか...見た目が思ったよりも気に入らなかったとか?


蓮)いや...そんな事じゃないんだ。まぁ、この話しはここで切り上げるよ。


俺は洗い物が終わり、さっきとは違う服装をしていた鈴仙に質問をした。


蓮)あれ?鈴仙服着替えた?


鈴仙)えぇ、2人と訓練するためにね。


蓮)ん?訓練?何のこと?


鈴仙)覚えてないの!?この前、私が言ったじゃない。訓練するって。


蓮)訓練...訓練...くn...あっ!!言ってたわ。急いで着替えてから待ってて。


俺は急いで階段を駆け上がり、半袖半ズボンのスポーツウェアに着替えた。家の中には誰もおらず、庭に2人がいた。すでに鈴仙が強矢に何か教えている。俺は急いで外に出ると、さっきまで立っていた強矢が地面に伏していた。


蓮)これは一体どう言う状況で?


鈴仙)これは格闘訓練よ。受け流しやカウンターを練習してたんだけど...お手本を見せようとしてつい本気でやっちゃって...


え?これまさか、俺もやるの?だとしたら俺も強矢みたいに...とめちゃくちゃ焦ったが...


鈴仙)今は強矢と訓練中だから...


鈴仙は縁側の机を指差して続けた。


鈴仙)あそこに置いてある銃でも練習してて。


蓮)え?銃?銃刀法違反だけど...大丈夫なん?


鈴仙)こんな状況で法律なんか律儀に守ってる方が死んじゃうわよ。蓮も刀使ってるからもう共犯よ。


蓮)うっ...それを言われたらぐうの音も出ないよ。


俺は机に向かい、一丁の銃を取った。


蓮)この銃でも良い?


鈴仙)何でも良いわよ...ってそれデザートイーグルじゃない!無理は言わないからやめておいた方がいいわよ。


蓮)何でよ、銃なんてどれも一緒だろ?


鈴仙)一緒じゃない!それは50口径のスナイパーライフルにも使われてるくらい大きな弾丸を使うから反動が凄いの!初心者が使ったら1発で肩が...etc


俺はオタクのように語る鈴仙を横目にデザートイーグルのマガジン内の弾薬を確認した。

シャキンと言う金属が擦り合う音がした。

弾薬数は8発か...俺は確認するとマガジンをデザートイーグルに入れた。カチャッと言う心地の良い音に清々しい気持ちになる。そしてスライドを引くと、カチンと言う、弾薬が薬室に入った音がした。俺はスライドを少しだけ下げて薬室に弾が装填されているか確認して、庭の壁に掛かった的に照準を合わせた。距離は10メートルくらいだ。俺はしっかりと狙って引き金を引く。


ドゥン!! ドゥン!!


俺は始めての銃の音に驚いた。的には中心から大きく外れた穴が空いていた。残念という気持ちよりも反動の大きさに驚いた。身体中に響くような轟音と手首と肩がジンジンと痛んでいる。


鈴仙)って!蓮!大丈夫!?ダメって言ったのに...


蓮)ハハハ、だいぶ反動がでかいな...手首と肩痛めちまったよ。


鈴仙)当たり前よ!とりあえずシップ貼るからこっち来て。


強矢)何だ...今の音...また地震か?


蓮)違う、違う。俺が銃の練習しただけだよ。叩き起こすみたい事してすまん。


とりあえず銃の扱いは何とかなりそうだが、反動に慣れるのは時間がかかりそうな...まぁ、時間があれば鈴仙に受け流し方とか教わればいいか。だけど、鈴仙には格闘戦の方を教えてもらいたいな。


鈴仙)ちょっと!まだ、動かないでよ!


蓮)手当はもう良いよ。それより、強矢みたいな格闘戦を教えてくれないか。


鈴仙)そんな状態じゃ無理よ!手首や肩を痛めるだけじゃ済まなくなるわ!


蓮)いや、大丈夫だ...問題ない。手は能力を使えばすぐ治るし...


鈴仙)そういう問題じゃないの!!とにかく今日は家で大人しくしてて!


蓮)わ、わかったよ。


俺は不貞腐れたようにそう言って家の中に入った。


蓮)はぁ〜あ、何でこうなるかな...暇だし、飯でも作ってるかな。


俺は手首は痛めてるものの、左手でも料理は出来るので大したことはない。


蓮)昼飯は何が良いかな?適当に炒飯でいっかな。


俺は冷蔵庫から焼き豚とネギとニンジンとピーマンを取り出した。右手は幸い包丁くらいなら使えそうだ。俺は食材を細かく切ってご飯と一緒に混ぜた。流石に右手でフライパンを持つことはできない為、左手でフライパンを振った。そして調味料を何個か導入して料理ができた。時間は12:37だった。


蓮)良い時間だし飯食えよ


家の中からは香ばしい香りが漂っていた。


鈴仙)その状態で料理したの!?怪我が悪化するから良くないのに...


蓮)大丈夫、大丈夫。これくらいなら明日には回復してるから。そういえば強矢、そろそろ帰った方がいいんじゃないか?明日には荷造りは終わらせておきたいから。とりあえず飯だけは食っていけよ。


強矢)そうだな。ありがとう。んじゃ遠慮なく頂きます。


強矢は急いでご飯を食べて帰って行った。俺と鈴仙はゆっくりご飯を食べて、鈴仙が洗い物をしてくれた。俺は鈴仙の訓練を受けたい旨を伝えると諦めた表情でOKを出してくれた。


鈴仙)はぁ、何を言っても聞かなそうだからもう良いわ。


俺は苦笑いをして鈴仙と格闘戦をした。


鈴仙)準備はいい?


蓮)もちろんだ。


鈴仙は首を縦に振ると始め!!と言った。俺はその言葉を聞いた途端、鈴仙の足を狙いに行ったが、あっさりと躱され、俺は体勢を崩した。そこを鈴仙は見逃さず、素早く足払いをして俺を転ばすと関節技を決めてストップをかけた。


鈴仙)はぁ、蓮。あなためちゃくちゃ弱いわよ。


蓮)そんな弱い?


鈴仙)子供と喧嘩してるみたいよ!あなたは動きが単調すぎるの。だから相手の動きをパターン化して、何個か動きとか攻撃する時の予測をしておきなさい。それと、動きの隙が大きいからもうちょっとコンパクトにしても良いと思うわ。


蓮)そこまで助言されると心折れるなぁ...

まっ、その助言踏まえてやってみるか。

鈴仙、合図を頼む。


鈴仙)えぇいいわ。いくわよ...フゥ。始め!!


俺はさっきと同じように鈴仙の足を狙う。すると鈴仙はさっきとは打って変わって、俺に直接攻撃を仕掛ける。だが、鈴仙の助言通り、攻撃の予測をしていたので危なげなく避けた。だが、鈴仙の攻撃速度が早く、避けるか受け流すかで精一杯だった。


蓮)クッ!!


まずい、このまま押し切られると隙ができる!さっきみたいに関節技を決められるかもしれない。

俺は鈴仙に蹴りを使って少し距離をとるがすぐにまた距離を縮められた。俺は今度は動きを変えて、再び足技を使うというフェイントを掛け、鈴仙の目が俺の足に行くが、俺の攻撃の本命は鈴仙の腕だった。俺は鈴仙の肘を伸ばしきり、骨を折る体勢を取ったところで鈴仙は降参した。


鈴仙)さっきの助言のおかげか、だいぶ戦えるようになってるわよ。動きもさっきよりも小さくなって小技が打てるようになってるし。極め付けは足技のフェイントね。最初の蹴りは囮で、2回目も蹴りをすると思わせて視線を足に集中させたところで腕の骨を取りに来たのはとても良かったわ。


蓮)フフン!


俺は得意げに鼻を鳴らすが...


鈴仙は庭の壁に掛かった、中心から大きく外れた的を見て気まずそうな顔を浮かべてこう続けた。


鈴仙)まっ、でも蓮は格闘戦よりも銃を練習しなきゃ無さそうだけどね。


蓮)うっ...それは言わないでくれよ〜。


2人だけの庭に笑い声が響いた。

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