第6話
周囲に静けさが戻る。あいつらから奪ったも同然の短剣を、とりあえず地面に投げ捨て、俺は伸びたままのヴェインに歩み寄り起こしてやった。
「ヴェイン、まずお前は」
「ディアスすごいね! すごいよ! ねぇねぇ、ディアスの能力は何!? 剣? それとも身体強化? なんにしろ、ヴェインってやっぱりすごく強いんだね!」
「お前は兎に角、体力を」
「僕もヴェインみたいになれるかなぁ? 楽しみだなぁ!」
「……はぁ」
全く人の話を聞こうともしない奴だ。まぁ、いい。無駄に話を続けるのも馬鹿らしく、俺は落ちたままの剣を拾い上げ、押しつけるようにしてヴェインに持たせてやった。
ため息をつきたいのを我慢し、こめかみを押さえつつ荷馬車を振り向けば、
「ふふ、ディアスちゃんって強いのね」
「強さ、か。俺も強くなりたかったよ」
「ふぅん……。ま、それはそれ、これはこれ。ねぇえ、そんなことより、さっきこっちに枝飛ばしてきたでしょう?」
「あ?」
そう言い幌から出てきたガレリアは「んっ、んっ」と艶めかしい声と共に、自分の
「おい痴女、何やって」
「ん、はぁぁん。抜けたぁ」
そう言ってガレリアのが手にしたのは、ぬめぬめと日光を照り返す液体をまとった小枝だった。ただし、その液体は断じて厭らしいものではなく、赤黒い、グロテスクな色をしていた。
「おい、んな汚ねぇもん見せんな。ヴェインが見てるだろ」
「大丈夫よ。だって私、こんな細いのじゃ満足出来ないもの」
「ケツから血を流しながら言う台詞じゃねぇだろ。リーフィにでも見てもらえ」
「嫁入り前の女性の体に傷をつけたのは、ディアスちゃんでしょ?」
「よかったな、その小枝はどうやらお前より強いぞ。目的達成だ」
これ以上馬鹿らしい会話をしてたまるかと、シッシッとガレリアに手を振る。どうやら一部始終を幌の隙間から見ていたらしいリーフィが「治す」と、来い来いと手で示しているし、ちょうどよかった。
こちらに背を向けたお陰で、ガレリアの破れた服からケツが見えそうになっている。内心、あの女……と舌打ちしながらも、ヴェインから見えない位置に体を移動させつつ、
「ヴェイン、お前もリーフィに見てもらえ」
「これくらいなら大丈夫さ!」
「少しの傷から菌が入ることもある。街だと治癒士がいるだろうが、こういった旅では、化膿しちまえば治すのも一苦労だ。今のうちに」
と幌を指差し振り返った。
これまたリーフィが顔を覗かせていたため、頼むと言いかけたところで。
「男の人は、しない」
「は?」
「これ、塗るといい」
無愛想にも、ポイと小さな丸い容器を投げてよこしてきた。あのエルフの表情がピクリとも動いた試しなどないが、ここまで無愛想だと逆に清々しささえ感じる。
仕方なく投げてきたそれを受け取って蓋を開ければ、深緑色の腐った香りのする塗り薬が、怪しい煙を発しながら鎮座していた。
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