第5話
なんとまぁ、自分でも大きく出たものだと思う。それでも俺が剣を手放す気がないのは、このくらいなら俺ごときの実力でもどうとでもなると踏んだからだ。
「ディ、ディアス……!」
土まみれの顔を拭って、ヴェインが不安と、だが同時に、多大なる期待を寄せた目で俺を見る。
「いいか、ヴェイン。当たり前だが、剣ってやつは振ってるだけじゃ斬ることはおろか、叩き潰すことさえ出来ないもんだ」
そう言い俺は剣を握り直し、切っ先を野盗にちらつかせ、空いたほうの手で“来い”と示してみせた。
「こンの……、その余裕、いつまで続くかなッ!」
野盗どもが一斉に切りかかってくる。計五人、だが一人はアタマらしく指示だけを飛ばすばかりだ。
「四人。舐められたもんだな、もしくは俺を知らないのか」
「ブツブツとうるせェ!」
右から短剣を手にした野盗が一人、左からはムチをしならせる野盗が一人。あと二人はどうやら能力を行使するつもりなのか、何やらそれぞれ小枝と石を拾っている。
「ヴェイン、よく見ておけ。ステップワン、まずは相手の足を見ろ」
ムチがしなり、俺の動きを封じようと、まるで獲物を狙う蛇のごとく的確に腕を狙ってくる。それを二、三歩下がり剣に巻きつくよう調整し、剣が動かなくなったところで俺は手を離した。
「こいつ! 獲物をテメェから離しやがった! バカめが!」
「わざとに決まってんだろ」
調整したそのままの動きで、右から来る野盗の、短剣を握る右手首を左手で掴み、手首を捻るようにしてやる。
「あ”あ”あ”!?」
痛みで力が抜け、短剣がするりとすべり落ちる。それを右手で取ってから、左に体を捻らせる動きをし、勢いと共に先ほどのムチ野盗に短剣野盗を投げ飛ばす。
ちょうどムチ野盗の手に、巻き取られた剣が握られる瞬間だった。
「わ、わわわ!」
「やめ、剣が刺さ……!」
咄嗟に剣を反らしたことで難は逃れたようだが、二人はお互いに頭をぶつけ、気を失って地面へと倒れ込んだ。それに興味の欠片すらない俺は、右手に持ったままの短剣を器用に回しながら、
「足を見れば、相手との間合いがわかり、獲物が届くか届かないかがわかる。そしてステップツー」
と左手の中指と人差し指を立てた。
やっと下準備を終えたらしい残り二人の野盗が、必死に集めたであろう石と小枝をちらつかせながら「やンのか!?」と遠吠えを上げている。
「能力ってのは、大小はあるが優劣はない。では何が優劣を決めているのか」
「ゴチャゴチャとうるせェ奴だな! あの世でカアチャンにでも喋ッてなァ!」
待ちきれない野盗が、大量の石と小枝をボールを投げるガキのごとく俺へと投げつけてきやがった。どうやらこの野盗どもは、全員が全員、身体強化系の能力らしい。
それを短剣で突き砕きながら、小枝は切り刻みながら、地面に転がったままのヴェインに視線をやった。意識を失っていたら話を終えるつもりだったが、顔をこちらに向けているのを見るに、どうやら伸びてはいないらしい。クソが。
「例えばそう、家屋が燃えているとする」
顔の横を掠めた小枝が、背後の荷馬車へと突っ込んでいく。悲鳴に近い何かが聞こえたが無視だ無視。
「自分の能力は空気を操る系統だとしよう。さてヴェイン、どうやって火を消し止める?」
「それ、は……風を吹かせ、て……」
「そうだな、普通はそう考えるか、もしくは出来ないとする。だが、出来る」
「チクショウ! いいかげんにッしやがれェェ!」
二人が更に投げつけようとするが、悲しいかな、もう石も小枝も野盗の手元にはない。
「クソッ、クソクソクソクソクソ! 普通は見切れねェはずだろうがッ!」
地団駄を踏む野盗二人を他所に、俺は足元の、元は手のひらサイズだった小石を拾い上げる。
「要は使い方だ。空気を扱えるのなら、範囲を指定し、中を真空にしてやればいい。そうすれば火は消える。とどのつまり、能力の本質を知ることが重要となってくるわけだ」
身体強化とはなんとも羨ましい能力を持っているというのに、それを上手く行使できる奴なぞ、ほんのひと握りでしかない。
「最後にステップスリー」
「も、もういい! 三人でかかるぞォ! オラァ!」
やっと五人目のお出ましのようだ。だが生憎と俺は、もうこれ以上動く気もなければ話すつもりもない。だから口から長過ぎるくらいのため息を吐き出してから、
「己の力量を見誤るな」
と三人を睨みつけた。
眉間にシワが寄っていたであろう俺の顔は、相当怖かったに違いない。残りの野盗三人は、伸びたままの二人を慌てて背負うと、捨て台詞さえ言うのも忘れて、逃げていったのだから。
「それはそれとして、ヴェイン。剣は振り回されるものじゃない、振り回すものだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます