うるさい(でも好き)

貧乏神の右手

1話 夏木さんは怖い人

「うるさい」


 ほぼ喋ったことないのに。

 騒がしくしてた俺が悪かったけど、なにもそんな怖い顔で言うことはないじゃん……。


「夏木さんはさ、昨日のバレーの試合見た?」

「わたしが見てると思う?」

「いや、思わないです」

「だったら話しかけてこないでよ。今勉強してて忙しいんだから」


 夏木さんは休み時間もいつも勉強している。予習に復習に大学受験の勉強に忙しない。まだ一年生なんだし気楽に行けばいいのに、真面目なのか将来を見据えているのか、とにかく勉強熱心な人だ。


「ねえ夏木ちゃんさ、一緒にお昼どうかな」

「いい。勉強で忙しいから」


 放課後はバイトに一直線らしく、友達は誰一人いないらしい。俺なんて毎日バレーの練習しかしてないし、それ以外のことはなにも出来ない。当然成績はめっちゃ悪い。


 連絡先くらい教えて貰いたいのになあ。


「お前嫌われてるだろ」

「やっぱそうよなあ」


 女の子って賑やかな人が苦手という人が多いと聞くし、きっと夏木さんもそのタイプなんだ。まあでも。


「俺は諦めないぞ! 中学の頃に頑張ってスタメン獲ったときと同じように、俺はあの人の一番になるんだ!」

「うるさい」


 ごめんなさい。

 もう少し落ち着きを持って過ごした方が良いのかもしれない。


「お前はもっと元気な感じやめて大人っぽくなったほうがいいぞ」

「でも俺から元気を取ったらどうなる?」

「なにもなくなる」

「だろー?」


 これで嫌われたらしかたない。とは思わないけど、この性格を好いてもらえないなら、そのときはきっぱり諦めて謝ろう。

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